近衞秀麿×朝比奈隆/2つのシベリウス

近衞秀麿氏の指揮姿というのを初めて観た。
その音楽については戦前のSP復刻をはじめとして、近衞版のベートーヴェンなど何度か耳にした程度であまりきちんと聴いてこなかった。先日お借りしたフジテレビのアーカイブスの中に何と近衞氏が日本フィルを振ったコンサートの模様が収録されているDVDがあったのでじっくり観た。最初の印象は、何と重心のどっしりした丁寧な音楽作りだろうというもの。1960年代後半から70年代前半にかけては日本のオーケストラが高度経済成長に寄り添うかのように進化を始めた時代だということもあると思うのだが、団員が音楽に没入し、指揮者と作曲家にとても献身的に仕えながら音符のひとつひとつをしっかりと形にしてゆく様が、音楽が進行するにつれて熱を帯びてくるのとあわせてはっきりと確認できることが興味深い。
それと、近衞秀麿氏は高貴な家系のお生まれだから、もう少し雅な楽音をされるのかと想像していたが、指揮姿などはさすがに麗しき雰囲気を醸し出すものの(?笑)、出てくる音は何の何の、重戦車のようなシベリウスが炸裂し、聴衆の心を本当に鷲掴みにするようなエネルギーに溢れていて、これはもう少し近衛さんについては研究の余地があるなと考えさせられた次第。

などと思考を巡らせているうち、そういえば朝比奈先生のシベリウスほかの実況盤が10年ほど前にビクターからリリースされていたことを思い出し、久しぶりに取り出してみた。

・シベリウス:交響曲第2番ニ長調作品43(1978.11.22Live)
・ブルックナー:アダージョ第2番(交響曲第3番第2楽章ノヴァーク校訂第1稿の2)(1983.9.16Live)
朝比奈隆指揮大阪フィルハーモニー交響楽団

朝比奈隆70歳の時の記録。とてもその年齢とは思えない情熱的なシベリウス(残念ながら僕はこの時はまだ朝比奈隆の芸術には出逢っていない)。
それと、まるでドイツ古典音楽、そう、ベートーヴェンやブルックナーを演奏するときの朝比奈先生らしいどっしりとした安定感に富んだ解釈が心に響いた。あまりに巨大で深遠で・・・。
本当ならそれが生み出された酷寒の大地を想像させる演奏がシベリウス向きと言えば向きなのだろうが、ロシア帝国の支配に苦しみ、民族の独立を夢見た国民性、あるいは想いが特に初期の楽曲には反映されているはずで、その怒りにも似た壮絶で爆発的な表現があまりにぴったりとし、どうして後年朝比奈先生はこの作品をステージで採り上げることを止めてしまったのだろうかとこの音盤を聴きながら考えた。
フィナーレなど感情が鼓舞されて、とにかく前進しようという気持ちにさせてくれるほど見事で、実に感動的。実演で聴いてみたかった。
ところで、付録のブルックナー。これがまた素晴らしい。1983年の東京カテドラルでの伝説的な公演はあまりに懐かしい。僕が上京した年であり、朝比奈先生のブルックナーに心底入れ込み始めた頃でもある(その後何十回と朝比奈隆のブルックナーに触れることができたことに今は感謝。あれらの体験は僕にとって真に宝物)。


3 COMMENTS

雅之

こんばんは。

・・・・・・鉄道省勤務の実兄の推薦により、月給60円で2年間阪神急行電鉄(現阪急電鉄)に勤務。電車の運転や車掌、百貨店業務、盗電の摘発などを行う傍ら、チェリストの伊達三郎の誘いで大阪弦楽四重奏団のヴァイオリン奏者として大阪中央放送局(JOBK)に出演。1933年(昭和8年)、会社員生活に飽き足らず「もう一度学問をやり直したい」という理由で退社し、改めて京都帝国大学文学部哲学科に学士入学し、1年留年して1937年(昭和12年)に卒業。卒論は中世音楽史を扱った内容だった。・・・・・・ウィキペディアより

そんな苦労された若き日の朝比奈先生に想いを馳せ、

「阪急電鉄プロファイル」[改訂版]~宝塚線・神戸線・京都線~ [Blu-ray]
http://www.amazon.co.jp/%E9%98%AA%E6%80%A5%E9%9B%BB%E9%89%84%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB-%E6%94%B9%E8%A8%82%E7%89%88-~%E5%AE%9D%E5%A1%9A%E7%B7%9A%E3%83%BB%E7%A5%9E%E6%88%B8%E7%B7%9A%E3%83%BB%E4%BA%AC%E9%83%BD%E7%B7%9A~-Blu-ray-%E9%89%84%E9%81%93%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%ABBD%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA/dp/B00327GHNC/ref=sr_1_10?s=dvd&ie=UTF8&qid=1339769225&sr=1-10

一方近衛秀麿氏はコテコテの表現主義ですよね。

人間、きれいごと言ってるだけでは駄目なんですよ(笑)。

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雅之

あっ、そうそう、

・・・・・・近衞は2度の結婚の他に「妾」も持っており女性遍歴も派手であった。2人の正式な夫人の他に実子を産んだ女性が少なくとも2人おり、また、終戦後アメリカ軍に抑留された際、尋問で子供の数を聞かれ、しばらく沈黙した後「今何人いたか数えているところだ」と言い放って取締官を沈黙させたように、他にも実子誕生までに至った女性が何人かいるようである。名門貴族の家ならではの複雑な事情が入り混じっている。・・・・・・
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BF%91%E8%A1%9B%E7%A7%80%E9%BA%BF

老人がよく、今の人の貞操観念の無さを批判するけど、あんたらの時代はどうだったのさ?(笑)

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。

>人間、きれいごと言ってるだけでは駄目なんですよ

肝に銘じます。

>老人がよく、今の人の貞操観念の無さを批判するけど、あんたらの時代はどうだったのさ?

鷹揚な時代ですね。
すべてが芸の肥やしになるんでしょうね。
現代のように何でもがちがちにルールで縛り上げるのもどうかとたまに考えます。

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