メトロポリタンの「魔笛」を観る

今週末の「早わかりクラシック音楽入門講座」では歌劇「魔笛」を採り上げる。
実は演出的にはあまりにメルヘンチックで好きではないのだが、20余年前のメトロポリタン歌劇場での公演を映像化したDVDをネタに講義を進行しようと今のところ考えている。

全曲を鑑賞する時間はなかったので序曲から第1幕の前半、それと第2幕真ん中あたりから最後までを観てみた。時はちょうどバブルの頃。ジェイムズ・レヴァインもクルト・モルも、キャスリーン・バトルもみな若い。何だかあの頃にタイム・スリップしたかのような錯覚を一瞬覚える。

それにしてもバトルの圧倒的な存在感はいかばかりか!演出はいただけないが、このバトルの歌唱だけでもこの映像の価値は十分にある。カーテン・コールでの誰よりも大きな拍手喝采と歓声がそのことを物語る(彼女が大トリだし、当時は飛ぶ鳥を落とす勢いだったんだな)。

例えば、第2幕フィナーレ最初の3人の童子とパミーナが絡むシーンの何とも悲哀のこもった演技と歌。このわずか5分強の舞台転換の場面にキャスリーン・バトルという不世出のソプラノの実力が垣間見られる。そして最後の、不穏な空気を一気に吹き飛ばし、最後の神殿前でのザラストロの歌と讃歌の合唱!!(ここだけはどんな演出でも、そういうものを蹴散らして音楽の輝ける力がものをいう)

太陽の光は夜を追い払い、
偽善者の不正な力を撃ち滅ぼした!

汝ら浄められた人たちよ、万歳!
汝らは夜を押しのけた。
オシリスの神よ、汝に感謝する、
イシスの神よ、汝に感謝する!
強いものが勝ち、
報いとして、
美と叡智には
永遠の王冠が飾られる!
名作オペラブックス5 「モーツァルト 魔笛」(音楽之友社)より引用

モーツァルト:歌劇「魔笛」K.620
クルト・モル(ザラストロ)
ルチアーナ・セッラ(夜の女王)
キャスリーン・バトル(パミーナ)
フランシスコ・アライサ(タミーノ)
マンフレート・ヘム(パパゲーノ)
バーバラ・キルダフ(パパゲーナ)
ハインツ・ツェドニク(モノスタトス)ほか
メトロポリタン歌劇場合唱団
ジェイムズ・レヴァイン指揮メトロポリタン歌劇場管弦楽団(1991.2Live)
ジョン・コックス(オリジナル演出)
グース・モスタート(演出)

キャスリーン・バトル万歳!!


5 COMMENTS

雅之

こんばんは。

魔笛についても、もう散々いろいろコメントしてきたからなあ。

何をまだ書いてないかなあ。

あっそうそう、魔笛の各幕の終わり、特に第1幕の終結部数小節と、ジュピター交響曲の第4楽章最後の数小節は、何であんなに似てるんでしょうねぇ。ちょっと聴いただけではまったく同じに聴こえる。

ところが、スコアを見比べると、音符の細部や楽器編成が結構異なるのです。

モーツァルト: オペラ 「魔笛」 KV 620/ベーレンライター社新モーツァルト全集に基づく全曲版スコア [楽譜]
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%84%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%88-%E3%82%AA%E3%83%9A%E3%83%A9-%E3%80%8C%E9%AD%94%E7%AC%9B%E3%80%8D-620-%E3%83%99%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%BF%E3%83%BC%E7%A4%BE%E6%96%B0%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%84%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%88%E5%85%A8%E9%9B%86%E3%81%AB%E5%9F%BA%E3%81%A5%E3%81%8F%E5%85%A8%E6%9B%B2%E7%89%88%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%82%A2/dp/4636023560/ref=sr_1_4?s=books&ie=UTF8&qid=1343220261&sr=1-4

モーツァルト: 交響曲 第41番 ハ長調 KV 551 「ジュピター」/ベーレンライター社新モーツァルト全集版中型スコア
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%84%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%88-%E4%BA%A4%E9%9F%BF%E6%9B%B2-%E7%AC%AC41%E7%95%AA-%E3%80%8C%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%94%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%80%8D-%E3%83%99%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%BF%E3%83%BC%E7%A4%BE%E6%96%B0%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%84%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%88%E5%85%A8%E9%9B%86%E7%89%88%E4%B8%AD%E5%9E%8B%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%82%A2/dp/4636023854/ref=sr_1_5?s=books&ie=UTF8&qid=1343220503&sr=1-5

この、最後の数小節だけの比較を、できるだけ大きなスコアを使い、ぜひやってみてください(時間があれば、明日、銀座のヤマハに魔笛のスコアを買いに行かれたら?)。それだけでもいろんな発見が出来て、とても面白いですよ。

ご紹介のDVD、なぜか今私の目の前にあります。ご多分に漏れず、昔はよくサヴァリッシュ&バイエルン国立歌劇場の映像と比較したものです。断然あっちが上だと信じていましたが、こっちはおっしゃるようにバトルが素敵ですねぇ。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。

>特に第1幕の終結部数小節と、ジュピター交響曲の第4楽章最後の数小節は、何であんなに似てるんでしょうねぇ。ちょっと聴いただけではまったく同じに聴こえる。

いや、この件は僕も昔からそう思ってました。まぁ、双生児的な何か思いがモーツァルトの中に単にあったんだと思ってました。

>スコアを見比べると、音符の細部や楽器編成が結構異なる

へぇ、そうなんですね!

>明日、銀座のヤマハに魔笛のスコアを買いに行かれたら?

承知しました。行けたら行ってみます。

>なぜか今私の目の前にあります。

シンクロニシティーですよ!(笑)
おっしゃるようにサヴァリッシュ盤が断然上ですね。

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