紫の肖像

ふと思い立ってブリジストン美術館を訪れた。
「ドビュッシー、音楽と美術」が開催されているからにほかならない。ここのところのマイ・ブームのひとつであるクロード・ドビュッシーの世界を、8月18日のコンサートへの勉強も兼ね、ようやく時間がとれたので。館内をじっくり2時間ほどかけて回った。感動した。まず最初に飛び込んできたキャプションが以下。ドビュッシーの1911年の言葉である。
「私は音楽と同じくらい絵が好きなので」
いやはや、音楽や美術や文学や・・・、同時代の様々な芸術にインスピレーションを受け、そもそもドビュッシーの作品が成立していることをあらためて思い知らされる。昨晩もフランス語歌詞とその英訳を対比して読みながらダニエーレ・ガッティによる「聖セバスティアンの殉教」を聴いた。意外にもこれは隠れた名作かもしれぬ、そんなことを思った。この作品、初演当時はダヌンツィオの台本があまりに長大過ぎることやカトリック教徒の観覧禁止処分を受けたことなどの理由で不評だったらしい。この後に続くバレエ「遊戯」も、同時期に初演されたストラヴィンスキーの「春の祭典」の影に隠れて、ほとんど顧みられることがない(しかし、今の僕の興味から言って、これらの作品の映像をぜひとも観てみたい)。晩年のドビュッシーのあまりに静的で深遠な世界を覗いてみたい、そんな欲望に駆られる。

ドビュッシーが20世紀音楽に与えた影響は計り知れない。
ジャズやロックも彼の存在があってこの世に産み落とされたものと言って言い過ぎでない。

昨日に引き続き、ブリティッシュ・ロックの王道。

Deep Purple:Who Do We Think We Are

Personnel
Ritchie Blackmore (guitar)
Ian Gillan (vocals)
Roger Glover (bass)
Jon Lord (keyboards)
Ian Paice (drums)

グループの求心力と遠心力。
以前から拙ブログ上で、室内楽におけるメンバーの求心力と遠心力が話題になってきたが、第2期パープル最後のアルバムを聴きながらあらためてそのことを考えさせられた。
ロック・バンドの場合。
個々の結束が最大限に強まっている時期に名演、名盤が生み出されるというのは当然なのだが、一方、メンバー間に諍いがあり、状態が決して良いとは言えない時にも実は名盤が生れているのでは(The Beatlesの”Abbey Road”なんていうのはその最たる例)。

録音からまる40年。邦題を「紫の肖像」と称するこのアルバムは、名盤”Live In Japan”の直後にリリースされたものだが、一般の評価は決して高くない。やれRitchieのギター・プレイが生温いだの、シングル・カットされた”Woman From Tokyo”以外は凡作だの、様々。
しかし、僕に言わせれば、危機においてこれほど個々のメンバーが個を押し出さず、しかもパープルらしいテンションとそれまでの彼らにはあまり見られないような情緒性(?)とが相まってすごく聴きやすいアルバムに仕上がっている。

これこそ、メンバーの「遠心力」の極致と言えるハード・ロックの名盤ではなかろうか。アルバム・タイトルの直訳は「俺たちは自分たちのことを一体何様だと思っているのか?」という自虐的なものだが(当時、特にリッチーとイアンの不仲により空中分解しかかっていたほど)、誰が付けたのか「紫の肖像」という邦題が、実にこの作品の遠心的エネルギーを言い当てているよう。生まれるべくして生まれた名作。

そういえば、先日ジョン・ロード氏が亡くなった。合掌。


6 COMMENTS

雅之

こんばんは。

>ロック・バンドの場合。
個々の結束が最大限に強まっている時期に名演、名盤が生み出されるというのは当然なのだが、一方、メンバー間に諍いがあり、状態が決して良いとは言えない時にも実は名盤が生れているのでは(The Beatlesの”Abbey Road”なんていうのはその最たる例)。

ロウソクの火が消える前に一時明るくなる、あるいは恒星が最後に赤色巨星になったり超新星爆発するみたいなものかもしれませんね。

・・・・・・20世紀末 – 21世紀初頭の研究では太陽の主系列段階は約109億年続くとされており、63億年後には中心核で燃料となる水素が消費し尽くされ、中心核ではなくその周囲で水素の核融合が始まるとされる。その結果、重力により収縮しようとする力と核融合反応により膨張しようとする力のバランスが崩れ、太陽は膨張を開始して赤色巨星の段階に入る。外層は現在の11倍から170倍程度にまで膨張する一方、核融合反応の起きていない中心核は収縮を続ける。この時点で水星と金星は太陽に飲み込まれ、高温のために融解し蒸発するだろうと予想されている。
 76億年後には]中心核の温度は約3億Kにまで上昇し、ヘリウムの燃焼が始まる。すると太陽は主系列時代のような力のバランスを取り戻し、現在の11 – 19倍程度にまで一旦小さくなる。中心核では水素とヘリウムが2層構造で核融合反応を始める結果、主系列段階よりも多くの水素とヘリウムが消費されるようになる。そのため、その安定した時期は1億年程度しか続かない。やがて中心核がヘリウムの燃えかすである炭素や酸素で満たされると、水素とヘリウムの2層燃焼が外層部へと移動し、太陽は再び膨張を開始する。最終的に太陽は現在の200倍から800倍にまで巨大化し、膨張した外層は現在の地球軌道近くにまで達すると考えられる。このため、かつては地球も太陽に飲み込まれるか蒸発してしまうと予測されていたが、20世紀末 – 21世紀初頭の研究では赤色巨星段階の初期に起こる質量放出によって重力が弱まり、惑星の公転軌道が外側に移動するため地球が太陽に飲み込まれることはないだろうとされている。・・・・・・ウィキペディアより
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AA%E9%99%BD#.E5.A4.AA.E9.99.BD.E3.81.AE.E6.AD.B4.E5.8F.B2.E3.81.A8.E6.9C.AA.E6.9D.A5

「重力により収縮しようとする力と核融合反応により膨張しようとする力のバランスが崩れ、太陽は膨張を開始して赤色巨星の段階に入る・・・」

バランスを崩した時にこそ真に眩いばかりに光輝く! 恒星(スター)もロック・バンド(スター)も!!

ジョン・ロード氏を偲んで、久々に、
「高速道路の☆(星)」~Deep Purple~

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。

>ロウソクの火が消える前に一時明るくなる、あるいは恒星が最後に赤色巨星になったり超新星爆発するみたいなものかもしれませんね。

おしゃるとおりですね。

>バランスを崩した時にこそ真に眩いばかりに光輝く! 恒星(スター)もロック・バンド(スター)も!!

これはいつも「バランス」や「調和」を懲りずに説く僕への当てつけですかね?(笑)
“Highway Star”は名曲です。
それにしてもこの70年代独特のサイケデリックな編集は時代を感じさせますね。
EL&Pの「展覧会」もクリムゾンの「スターレス」ももう少し普通の映像で観たかったです。

返信する
みどり

岡本様

ご無沙汰しております。
過去記事へのコメントで恐縮です

以前から気になっていたのですが、このアルバムに収録されている
“Rat Bat Blue”のジョン・ロードのソロには
「テープの速回し」説がありますよね?

「ジョンなら素で弾ける」と仰る信者の皆様も多くおられますが
私にはBWV855を倍速にしたように聴こえてしまいます(笑)

https://www.youtube.com/watch?v=6poRsrl_574
(2:37~の部分)

速弾きであることばかりが取り沙汰されるようですが
このソロとBWV855との関連については
殆ど言及されていないのが不思議に思えてしまい
「偶々LPを45回転で聴いたら面白かった」だとかいうのが
アレンジの真相だったら面白いな…などと妄想しております(笑)

返信する
岡本 浩和

>みどり様

ご無沙汰しております。
“Rat Bat Blue”のキーボード・ソロは間違いなくバッハのBWV855の引用なのですが、
その真意というのはどこにも言及されていないですね。
ジョン・ロードも亡くなってしまったので、もはや真相を知る術はないかもです。

>「偶々LPを45回転で聴いたら面白かった」だとかいうのが
アレンジの真相だったら面白いな

さすがはみどりさん!!意外にそんなところなんだと僕も思います。(笑)

ちなみに、洋書ですが”Rockin’ the Classics and Classicizin’ the Rock”という本には
ロック・ミュージックの、クラシック音楽からの引用の詳細がインデックスされているので
とても参考になります(本件についても掲載されています)。KINDLE版だと¥1,300なのでおすすめです。(笑)

https://www.amazon.co.jp/Rockin-Classics-Classicizin-Rock-Selectively-ebook/dp/B005EG5CM6/

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みどり

岡本様

ご教示いただき、ありがとうございました。
早速、購入いたしました(笑)

そういえば…
岡本さんはリコーダーに挑戦なさっていらしたことがおありでしたね?
再開なさるお気持ちはありませんか?

このくらい出来ると楽しそうですよね♪
https://www.youtube.com/watch?v=wmj-g4OQYG0

凄いでしょう?
あまりにウケてしまい、リコーダーが欲しくなって困りました(笑)

脱線、ご容赦のほどを。

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岡本 浩和

>みどり様

僕は不器用で、リコーダーも早い段階で諦めましたが、
さすがにこんなのができると楽しそうですね。
凄すぎます。

ありがとうございます。

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