内燃する情熱と高貴さが炸裂する

先日、久しぶりにふみ君に会って一献傾けた。
そして、ちょっとしたお土産だと称して1枚の音盤を手渡された。
サー・コリン・デイヴィス指揮シュターツカペレ・ドレスデンのエルガーの第1交響曲。ふみ君は素晴らしい演奏だという。ならばじっくり聴いてみようと思っているが、その前にここ数日ドビュッシーやサティなどを聴いては少し別の音楽が欲しくなった時に、繰り返して聴いていた音盤について書いてからということにする。
それは、偶然にもエルガーのヴァイオリン協奏曲。1910年に作曲されたこの音楽は両端楽章がそれぞれ20分近くを要する大曲で、しかもほとんど古典的なフォルムを守りつつ19世紀的なロマンティシズムに溢れているという点で、ここ最近になってようやく「面白味がわかった」傑作である。

しばらくフランスものを聴いていたせいか、ドイツ音楽以上に堅牢で公式通りという特長に懐かしさすら覚える(大袈裟・・・笑)。ほんの少しばかり冗長さを感じなくもないが、一たびエルガーの音楽の虜になったら、それですら快感であり、愉悦。繰り返し耳にし、ある日突然この音楽が「見えた」時に、一生の宝になる。そう、ブルックナーやシベリウスや・・・、あの手の音楽と非常に相似性のある「渋い」作品だといえる。

最近だと、ヒラリー・ハーン独奏の演奏の評判が高いが、僕がこの楽曲に最初に触れたのはチョン・キョンファ独奏による音盤(編集盤ゆえ付録に「愛の挨拶」と「気まぐれ女」がカップリングされている。これらは「コン・アモーレ」に収録されているもの)ということもあり、ついついこれを引っ張り出してしまう。どうにもこのチョンの厳しくも濃密なヴァイオリンが耳から離れない。

エルガー:
・ヴァイオリン協奏曲ロ短調作品61
・「愛の挨拶」作品12
・「気まぐれ女」作品17
チョン・キョンファ(ヴァイオリン)
サー・ゲオルク・ショルティ指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
フィリップ・モル(ピアノ)

フリッツ・クライスラーをして、ベートーヴェンやブラームスと肩を並べるアイドルだと言わしめたエルガーらしい内燃する情熱と、英国紳士らしい高貴さが炸裂する。チョンのヴァイオリンは第1楽章出だしのところからとても繊細。そして第2楽章の夢見るような囁きに彼女の「女性らしさ」を垣間見る。
一体この音楽はどんな心境で書かれたのだろう?愛する妻に向けたものなのか?それとも献呈者クライスラーへの尊敬の念を込めてのものか?伝記や文献の類が少なく、ライナーノーツのクライスラーの「休暇先のイタリアでインスピレーションを受け書かれた」という言葉から察するに、大自然への讃歌なのだろう・・・。
それほどに形も内容も巨大だ。
ロンドン五輪の最中、ベートーヴェンやブラームスと並び称される英国の大作曲家の音楽に耳を傾ける・・・。反復するごとに、音楽が染み入る・・・。素敵。


3 COMMENTS

ふみ

エルガーのヴァイオリン協奏曲って個人的には、夜明け時の暗闇と明るさの狭間で、霧のかかった広い草原に一人佇む詩人、ってインスピレーションを得ます。なぜかは分かりませんが、あのゴールの無い瞑想的音楽がなんとも言えず、私も好きな音楽です。

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岡本 浩和

>ふみ君

>夜明け時の暗闇と明るさの狭間で、霧のかかった広い草原に一人佇む詩人、ってインスピレーション

なかなか詩的でぴったりの表現だと思います。

>ゴールの無い瞑想的音楽

繰り返す聴くうちにはまるよね。
エルガーの音楽は奥深いと思います。

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