この秋、ヴァイオリニストのマキシム・ヴェンゲーロフが8年ぶりに来日公演を行う。
2007年の右肩の故障以来一時引退説も騒がれたほどだが、昨年から演奏活動を再開、久しぶりに彼の名演奏が聴けるのかと思うと嬉しくなる。
リサイタルではJ.S.バッハのパルティータ第2番ニ短調のほかベートーヴェンの「クロイツェル」ソナタが演目として挙げられているが、何と彼の使用楽器は1727年製のストラディヴァリウス・クロイツェルで、まさにベートーヴェンのこのソナタを献呈されたロドルフ・クロイツェルが使っていたヴァイオリンであることを知って驚いた。そのことだけでも一大事。10月5日の京都コンサート・ホール、そして10月6日の昭和女子大学人見記念講堂ではベートーヴェンとクロイツェルの「魂」が乗り移って、大変な名演奏が繰り広げられるのではと期待でいっぱい。
ところで、この来日に合わせたのかどうかは不明だが、先日Esoteric社からヴェンゲーロフのかつての名盤がリマスタリングされ、SACDとしてリリースされた。早速手に入れたが、実に最高の音質で(やっぱりSACDフォーマットの威力は絶大。それにエソテリックのエンジニア氏のマスタリング技術も脱帽もの)、繰り返し耳にするたびに内々で感動が渦巻いた。特にグラズノフのコンチェルト!!
・チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品35
・グラズノフ:ヴァイオリン協奏曲イ短調作品82
マキシム・ヴェンゲーロフ(ヴァイオリン)
クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1995.5録音)
アレクサンドル・グラズノフはペテルブルク音楽院の院長まで務めたロシア帝国及びソビエト連邦の誇る教育者であり、大音楽家であるが、ドビュッシーやストラヴィンスキーなどの新しい音楽を嫌悪し、その作風が前時代的なものだったこともありプロコフィエフやショスタコーヴィチら新進からは「時代遅れ」と揶揄されていた。
それに、ラフマニノフが自身の第1交響曲の初演をグラズノフに委ね、彼のお陰で大失敗し(酩酊状態で指揮をしたことが原因だというのが有力)、それがきっかけで心身症に陥ったというのは有名な話で、いずれにせよ彼が堅物である反面人柄的には極めてルーズな側面も持っていた「変人」だったことがわかって面白い。
ちなみに、唯一のヴァイオリン協奏曲は1904年の作。当時ドビュッシーが「海」を作曲していたことを考えるとあまりにロマンティックで前時代的であることが明確である。しかしながら、2楽章構成で、しかもほとんど単一楽章かと考えられるような構成と、第1楽章の後半に長いカデンツァを置いたことなど、他にはない「革新」にも挑戦しており、彼がまったくの「時代遅れ」ではなかったというのも確か。それに何よりこの協奏曲の美しさと、管弦楽とヴァイオリンの見事な調和と、いろんな意味で繰り返し聴きたくなる名曲であることにグラズノフの「天才」を僕はあらためて感じる。
そのことは何と言っても録音当時21歳のマキシム・ヴェンゲーロフの演奏によるところが大きい。19世紀ロシア的民族色に染まりながら(つまり土着性豊かで)とても洗練された現代的響きが、いわゆるグラズノフの「時代遅れ」感をすっかり払拭し、たったいま生まれた音楽のように聴こえる瞬間が頻出する。何より中心線(軸)が安定し肌触りの良いヴァイオリンの音色が聴く者を魅了する。大病前のアバドの棒によるベルリン・フィルの響きも絶妙。
ヴェンゲーロフ、復活したんですね!
いずれカムバックするだろうとは、なんとなく思ってましたが・・・。
ところでグラズノフのヴァイオリン協奏曲は大好きな作品。
ヴェンゲーロフ盤も持ってますよ!
美しいメロディにコテコテのロマンティックな響きがサイコーです。
第2楽章の主題の人懐こさも大変魅力的。
メンチャイ、ブルッフ聴き飽きた人、ぜひグラズノフを聴きましょう!
以前私もこんな記事を書きました。
↓
http://www.h2.dion.ne.jp/~kisohiro/glazunov.htm
>木曽のあばら屋様
そうです!見事復活のようです。
リサイタルが楽しみでなりません。
>メンチャイ、ブルッフ聴き飽きた人、ぜひグラズノフを聴きましょう!
同感です。
木曽のあばら屋様の記事はいつも読ませていただいております。
共感することいっぱいで勉強になります。
ありがとうございます!