シューリヒトのブランデンブルク協奏曲集

巨匠の最晩年の演奏というのは、得てして静謐でオーソドックスで、意外に「何もしていない」ように思えるケースが多い。
月末にとある企業のクローズド・イベントでクラシック音楽講座を開催することになっているのだが、たっての要望でJ.S.バッハを採り上げる。世俗音楽の数多の名作が生み出されたケーテン時代を中心に2時間ほど映像をご堪能いただこうと計画中で、その予習、というか準備という理由からバッハの周辺の音楽を例によって聴き始めている。

例えば、Scribendumからリリースされたシューリヒト・ボックスにひっそりと佇む「ブランデンブルク協奏曲集」。シューリヒトのまさに最後の録音となるこの曲集を僕はこれまで真正面からしっかりと聴いたことがなかった。否、聴いていたんだけれど聴いていなかった。その証拠に、実に多彩な意味合いを包含する演奏であるのに、まったく存在すら忘れてしまっていたのだから・・・。
こういう録音は「ながら聴き」ではだめだ。大袈裟だけれど、ともかく2時間近くの時間を捧げる覚悟がいる。そして真剣に対峙してみて、実に得るものがたくさんある名演奏であることがやっと理解できる。決して良いとは言えない音質にもかかわらずこの透明感はいかばかりか。そして何より指揮者をサポートするソリストの面々の豪華なことよ。

J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲集BWV1046-1051
ハインツ・ホリガー、アンドレ・ラウル、ミシェル・ピゲ(オーボエ)
レイモンド・メイラン(フルート)
モーリス・アンドレ(トランペット)
クリスティアン・ランゲ(バロック・フローテ)
クリスティアーヌ・ジャコッテ(チェンバロ)
カール・シューリヒト指揮チューリヒ・バロック・アンサンブル(1966.5録音)
ウェーバー:歌劇「オベロン」序曲(1962.9録音)
ニコライ:歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲
カール・シューリヒト指揮南西ドイツ放送交響楽団(1962.9録音)

特筆すべきは、演奏する人たちが指揮者に委ねながらとても伸び伸びと演奏している点だろうか。第5番の何とも表現し難い愉悦感と確信に満ちた響き。それが真に素朴に心の奥底に伝わるのだから大したもの。老練の極みとでもいうのか・・・。
それとコーダのチェンバロのカデンツァが何とも素敵。
バッハがこの作品を作曲したのはマリア・バルバラが亡くなる前の、とても幸福な時期だと想像できるが、「幸せ感」が滲み出ていて、繰り返し聴くにつけこちらまでウキウキした気持ちにさせられる。
それと第2楽章の牧歌的美しさよ。
ここには安心と余裕とが聴いてとれる。
さて、講座当日「ブランデンブルク協奏曲」のいずれかを視聴いただこうと考えるが、どの盤でいこうか。リヒターが1970年に収録したものあたりは妥当な名演として君臨するから良いのだろうが少し古い気もする。やっぱりアバド&モーツァルト管による最新の映像が最右翼か・・・。


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