バルトーク「プライベート・コレクションから録音集(1910-1944)」を聴いて思ふ

bartok_recordings_from_private_collections1997年夏にヨーロッパを周遊した時、ブダペストにあるバルトーク記念館を訪れた。ゾルターン・コダーイの記念館が市の中心部にあったのに対してバルトークのものは少し郊外の住宅地の中にあったと記憶する。緑豊かな敷地で、いかにも「静寂」を求めたバルトークらしいひっそりとした佇まいだった。晩年の困窮の最中にあるような貧しい建物を想像していたのだが、どちらかというと瀟洒でこぎれいな雰囲気だったことに心動かされたことが懐かしく思い出される。

そこでフンガロトンからリリースされたバルトークの自作を含めた録音集成を発見し、迷わず購入した。1910年の蝋管録音に始まり1939年11月まで、すなわち亡命直前までのピアノ演奏を中心に、1936年から44年にかけてのバルトークの講演録を合わせ4枚のCDに収録されている。確かに貴重な資料なのだが、いかんせん音質は蚊の泣くようなものが大半で、鑑賞に堪え得るものも少なく随分長い間通して聴くことができなかった。

バルトーク:プライベート・コレクションから録音集(1910-1944)
バルトーク:
・子どものためにSz. 42 第3巻第22番 ばかさわぎ~7つのスケッチ作品9b第3番
・10のやさしい小品第10番「熊の踊り」~7つのスケッチ作品9b第6番「ワラチアン・スタイルで」
・14のバガテル作品6第10番アレグロ
・14のバガテル作品6第7番アレグレット・モルト~子どものためにSz.42第1巻第10番アレグロ・モルト
・ルーマニア民族舞曲Sz. 56(抜粋)
・2つのルーマニア舞曲Sz. 43第1番アレグロ・ヴィヴァーチェ
・ハンガリー農民の歌による即興曲Sz. 74第1番アレグロ・ヴィヴァーチェ
・アレグロ・バルバロBB63
・10のやさしい小品Sz. 39(抜粋)
・2つのルーマニア舞曲Sz. 43第1番アレグロ・ヴィヴァーチェ(抜粋)
J.S.バッハ:パルティータ第5番ト長調BWV 829(抜粋)
コダーイ:7つの小品作品11(抜粋)
ベラ・バルトーク(ピアノ)
J.S.バッハ:チェンバロ協奏曲イ長調BWV 1055第1楽章(抜粋)
モーツァルト:ロンドイ長調K. 386(抜粋)
ベラ・バルトーク(ピアノ)
エルネー・ドホナーニ指揮ブダペスト・フィルハーモニー管弦楽団
リスト:バッハのカンタータ「泣き、嘆き、悲しみ、おののき」とロ短調ミサ曲の「十字架につけられ」の通奏低音による変奏曲S180
ベラ・バルトーク(ピアノ)

「父・バルトーク」で、この20世紀の天才の人となりに一層の興味を抱いたついでに真面目に傾聴するべく1枚目を取り出した。「子どものために」第3巻第22番(1910年6月録音)から「ルーマニア民俗舞曲」(抜粋)(1912年5月1日録音)までが蝋管録音、「2つのルーマニア舞曲」第1番(1929年11月5日録音)がHMVによる録音、「ハンガリー農民の歌による即興曲」から「2つのルーマニア舞曲」第1番(抜粋)(1932年1月31日&1935年1月31日録音)までが放送録音となる。バッハ以降他人の作曲作品は1936年10月と1937年10月録音のバビッツ夫人によるプライベート・コレクションである。

今から100年以上も前の録音が、それもバルトーク自身の演奏である点に感無量。しかし何と言っても1929年の「ルーマニア舞曲第1番」HMV録音以降が聴きもの。音の一粒一粒が立ち、タッチも明快で、この人はピアニストとしても超一流であったことが証明される。

1935年1月31日録音の「アレグロ・バルバロ」と「10のやさしい小品(抜粋)」を聴いた時、この人は本当に妻や息子を愛しているんだと不思議に伝わってきた。決して野蛮でない、いかにも都会的センスに溢れる「バルバロ」に、ペーテルを想って書いた(弾いた)のだろう「やさしい小品」の優しい調べ・・・。こういうものを聴いて、バルトークの本質は民謡、民俗舞曲など辺境の(人から人へというつながりの中に生まれた)伝承音楽にあるんだと確信した。

1935年2月5日付、バーゼルからのペーテル宛絵はがき(写真はバーゼル動物園の象の親子)。

いとしいペーテルへ
4年ほど前にここに来た時にも、動物の写真を送ったね(サル)。あさってここを出発し、家に帰る。
ペーテルとお母さんにたくさんのキスをこめて 父より

 


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