フルニエの無伴奏チェロ組曲(来日ライブ)

秋晴れの一日。
銀座でとあるセッションがあったのだけれど、少々不発。クライアントの意識の奥底にまで到底届かないような壁、あるいは分厚い殻あり。こういうのも自身の鏡だとするなら、己を省みて立て直すことが重要か。その意味では良い機会。

ところで、銀座に所用の時は大抵自転車で麹町界隈を抜け、皇居沿いに進み、日比谷を通る。その間、国立劇場や日比谷公園などを横目にするが、裏寂れた(?)TOKYO FMの本社近くを通過するたびに、そういえば昔はよく聴いたものだと感慨に耽る(今となってはまったく聴かなくなった)。
かつてはFM東京と名乗っていた局。クラシック音楽の素敵な番組もあった。
上京して間もない頃、「TDKオリジナルコンサート」なんていうのもあったっけ。懐かしい。
ああ、確か・・・。

ちょうど40年前にピエール・フルニエが来日(5度目、当時65歳)した際、虎ノ門ホールでバッハのこの全曲を採り上げ、それが当時FM東京の件の番組で放送されたそうで、その貴重な音源が数年前CD化され、初めて聴いたときに何て真の太い、しかも地に足の着いた余裕のある音なんだろうと一気に引き込まれた。それに録音が不思議に生々しい。ほとんど未編集のままなんだろうか。そのことがかえってリアルな音場を生み、本当に眼前でフルニエが演奏しているのではという錯覚に陥る。

第1夜は第1番、第5番&第3番というプログラムだったらしい。
素敵な順番だ。

J.S.バッハ:
・無伴奏チェロ組曲第1番ト長調BWV1007
・無伴奏チェロ組曲第5番ハ短調BWV1011
・無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調BWV1009
・フルニエ、無伴奏チェロ組曲第1番について語る
・フルニエ、無伴奏チェロ組曲第5番について語る
・フルニエ、無伴奏チェロ組曲第3番について語る
ピエール・フルニエ(チェロ)(1972.3.2Live)

フルニエ曰く、ツィクルスを演る時は必ず3曲ずつ2夜に分けるのだが、それぞれの楽曲の個性を際立たせることを心掛けているのだと。
中でも出色は第5番ハ短調。
組曲の中でも特に深みと翳りの濃いこの作品の真価を知らしめられたのがフルニエの演奏(スタジオ盤)による。この実演盤についても沈潜してゆく様と開放される様子がとてもバランスよく組み立てられ、安心感のある音楽が鳴り響く。
一挺のチェロで宇宙を表現する。
余計なものが削ぎ落されたストイックな美。
そこにフランス的エスプリが注入されると、何て柔らかくて洒脱な音楽に変貌することか。


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