ハイドン×ベートーヴェン

CD黎明期?・・・多分80年代の終わり頃だろうか、まだまだCDなるものが結構な値段で、限定発売ということで僅か2,000円(!)で日本コロンビアから発売されたアルゲリッチの新譜を手に取り、とにかく早く聴きたくて急ぎ足で帰宅の途についたあの時・・・。
ちょうど今、僕の中でホットなベートーヴェンとハイドンのカップリング。
久しぶりに聴いたけれど、全く色褪せない。しばらくアルゲリッチは聴いていないけれど、この頃がやっぱりピークだったのだろうか、彼女の・・・。

いや、もちろん年齢を重ねて一層深みのある音楽を創り出すようになっただろうことは間違いないのだが、何と言うか、キラッと光る、インスピレーションに満ちた瞬間が多く垣間見られるのは80年代までだったんだろう、とか・・・。80年代初頭に聴いたコンドラシンとのチャイコフスキーのライブ盤も半端なかったし、その頃に小澤征爾の指揮で新日本フィルと演った伝説のチャイコフスキーも手に汗握る大変なパフォーマンスだったし。

あれ、また昔話をしてしまっている・・・。ふーむ・・・、少し切り替えよう。

ベートーヴェンはヨーゼフ・ハイドンに直接教えを乞う機会を持っているが、果たしてそれがどれくらいの期間だったかはよくわかっていないようだ。おそらく1792年の夏頃から1794年の初頭くらいまでの間に何回かというレベルらしいが、いずれにせよベートーヴェン自身はハイドンの方法に決して満足しなかったという。ただし、かのハイドンも渡英やら何やら脂の乗った時期で忙しい身だったこともあるゆえ、そのことでハイドンの「先生」としての能力が低かったとは言い切れない。
ベートーヴェンのボン時代の師であるクリスティアン・ゴットロープ・ネーフェはフリーメイスンであり、ウィーン行に尽力した立役者でもあるわけだから、ハイドンと間違いなくつながっていただろうし、少なくとも思想的には合致していたはずだから、作曲技法的にも随分影響は受けているだろうとは思われるのだけれど、とにかくデータが少なくて正確なところはなかなか把握しにくい。

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番変ロ長調作品19
ハイドン:ピアノ協奏曲ニ長調Hob.XVIII-11
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ&指揮)
ロンドン・シンフォニエッタ
ノーナ・リデル(主席ヴァイオリン)(1980年録音)

ベートーヴェンの第2協奏曲はいかにもハイドン風な典雅なセンスに満ちた音楽だと昔から僕は思っていた(この作品、1793年~95年に生み出されたということはちょうどハイドンの世話になっていた頃ということだ)。でも、アルゲリッチの手にかかるとベートーヴェン的な、すなわち壮麗で闘争的な雰囲気が一気に増す。おそらく師の影響と自身のアイデンティティが混在する、そういう音楽なんだろう。それをアルゲリッチが動物的カンでキャッチして、自ら弾き振りしたことでいかにも両雄の「らしさ」が垣間見られる名演奏になったのだと推測する。
それと、ハイドンの方。これは当時から評論家諸氏から絶賛された演奏だけれど、いかにもモーツァルト風の懐かしさと優雅さに支配され、その意味では女豹アルゲリッチ的でない(笑)。しかし、アルゲリッチのいかにも女性性が存分に発揮された傑作だと思われる。弾むような愉悦と、時にみられる哀惜と・・・(第2楽章ウン・ポコ・アダージョなど涙が出るほど美しい)。


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