邪道だということを承知で、僕は里中満智子の「ニーベルングの指環」を愛読する。全部を観るのに、あるいは聴くのに述べ14時間近くを要する大作をそう容易に繙くことは不可能。いや、台本を読むのだって相応の労力を要する。そんな時にとても便利だから。
何年か前に出版されたこの「マンガ名作オペラ」は、単行本2冊に全ストーリーが収録されており、僕の世代には(少なくとも少女マンガ好きの間で)圧倒的人気の高かった里中さんのあの絵でもってわずか小1時間ほど(そんなにはかからないかも)でワーグナーの至高の世界を堪能できるのだから願ったり叶ったり。例えば、楽劇にして1時間ほどの「ワルキューレ」第1幕などはたったの25ページ。それでいてストーリー上の重要なポイントを省くことなく、十分に読み応えあるのだからこの作家の腕というのは大したもの(そもそもフンディングの家で起こったとある一晩の出来事ゆえ、内容は単純でかつ動きも少ない。とはいえ、こうやってマンガになってあらためて思うのは、まるで荒唐無稽な村芝居のような筋書だということ・・・笑)。
しかし、音楽は真に素晴らしい。
BGMにカイルベルトのバイロイト・ライブ。
双子の兄姉であるジークムントとジークリンデの再会と落恋の合間に、2人が生き別れになった経緯、父ヴェルゼ(ヴォータン)のこと、さらにヴォータンがさすらい人に姿を変え、フンディングの家に置いた運命の剣ノートゥングのことなどが語られる。ジークフリート誕生前夜の重要な「事実」が、この1時間ほどの幕で表面化する。
そして、後半のジークムントとジークリンデによるいわゆる「愛の二重唱」、このあまりに私的で詩的な音楽が物語に華を添える。
ところで、あらためてカイルベルトの演奏をじっくり聴いてみて思うこと。
奇を衒うことなく何と端正でありながら気合いの入った音楽であるか、ということ。それこそドイツ魂の権化。ワーグナーが「ワルキューレ」を創作していた頃、前の妻とも別れ、ヴェーゼンドンク夫人との恋沙汰や、それ以外の女性との関係を数多持っただろう時期で、音楽にはどうしてもそういう「エロス」的芳香が匂うのだけれど、カイルベルトのこの演奏ではそういう性的側面が姿を潜める(音楽そのものは艶やか)。とても真面目な人だったのだろうか。興味深い・・・。
今宵もワーグナーに酔い痴れる。
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