シルヴェストリのチャイコフスキー

先月ふみ君に会ったときにどうしても聴いてほしいと手渡された音盤。本当は年末年始休暇中に聴いておこうと思ったのだけれど、すっかり忘れて持ち帰らなかったもの。もはや今さらチャイコフスキーの第5交響曲でもないだろうと思ったけれど、ムラヴィンスキーを神と崇める彼がムラヴィンスキー以上の名演だと太鼓判を押すことと、年末に小澤のチャイコフスキーに吃驚仰天したという経験が後押しをして、帰京第1日目に通して聴いてみた。
何せ10日ぶりの東京。にもかかわらず、帰るなり呼び出しがかかり、メール確認や年賀状チェックという瑣末な作業もままならないまま出掛けて遅くに帰宅。明日以降の細々した準備も適当に、ここぞとばかりに一気に、それもただ1回だけ、一期一会のつもりで傾聴した。

結論。名演奏である。いや、というより、作曲家自身の評価がどんなに低かろうが第5交響曲というのは超名曲、「よくできた」曲であることを再確認した(そういえば、これまで何度も実演にも接しているが、よく考えると誰のどんな演奏でもそこそこに感動させられていた)。確かにこの演奏、思いがけないところでテンポの伸縮があり、しかも録音から50年以上を経るのに実に生々しい。

チャイコフスキー:交響曲第5番ホ短調作品64(1957.2.21&22録音)
ボロディン:歌劇「イーゴリ公」序曲(リスムキー=コルサコフ&グラズノフ編曲)(1959.4.1録音)
コンスタンティン・シルヴェストリ指揮フィルハーモニア管弦楽団

第5交響曲は1888年5月から8月にかけて、すなわちチャイコフスキーが48歳の時に書かれた作品である。脂の乗ったまさに働き盛りの頃のものなのだけれど、この時期本人はどうにもインスピレーションの枯渇には悩んでいたようだ。以下、フォン・メック未亡人宛の手紙から。

私は交響曲を一つ書くつもりだということを申しましたかしら。出始めは、困難でした。けれども、もうインスピレーションが来たようです。とにかく様子を見ましょう。
(1888年6月)

私は交響曲の半分までオーケストレーションしました。私はそれほど老人でもないのですが、年齢を感じ始めました。私は大変疲れます。もとと違ってピアノを弾くことも、夜、本を読むこともできなくなりました。
(同年7月25日)

うーん、そんなことはないのだけれど・・・。わずか3ヶ月ほどで完成させているわけだし・・・。初演時の専門家の批評はあまり良くなかったらしいが、再演の度に評価はうなぎ登りだったわけで、結果チャイコフスキーも評価するようになったという。そういうところにもチャイコフスキーの「人間らしさ」が垣間見え、興味深く、また愛着も湧く。


10 COMMENTS

ヤマザキ

チャイコフスキーの5番は私も大好きで、昨日アウローラ管弦楽団で聴いてきました。ロシア音楽を演奏したい人が集まって作ったアマチュアオケの演奏だけあって、熱気があって感動しました。シルヴェストリの上記演奏は特に最終楽章のフィナーレの速さは他では聴くことができません。彼がフランス国立放送管弦楽団を振った「新世界より」も迫力があり名演です。

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岡本 浩和

>ヤマザキ様
チャイコの5番は本当に名曲ですよね。
ここのところ僕の周囲でシルヴェストリの廃盤になったボックスセットが話題になっているのですが、ショスタコの5番も相当な名演らしいです。そうですか、「新世界」も最高ですか!
ますますあのボックスセットが欲しくなりました。ヤマザキさんはお持ちですか?

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ヤマザキ

こんばんは。 山崎 潤です。
シルヴェストリのBOXは所有しています。いつでもお貸しします。内容は「新世界より」「チャイコ4-6」は入っていませんが「イタリア奇想曲」「フィンランディア」「ルスランとリュドミラ」などが良いです。「ショスタコ5番」の4楽章はロジンスキー並みの荒れ狂いようです。「買った時は10枚組みで約5000円でしたが、DISC UNIONで中古で2000,~3000円で時々見ます。今ネットで在庫を見たら新宿クラシック館に1セットありました。(品番 DB707432)電話すれば1日取り置き可能です。昨年キングから出たN響のライブ2枚組みも買いましたが1964年の録音なのにモノラルで「新世界より」もいまいちでした。

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ふみ

おっと、ムラヴィンスキーより素晴らしいって言ってしまってましたっけ…(笑)
ムラヴィンスキーのチャイ5が素晴らしいのに異論は無いですが、ムラヴィンスキーでは他にもっと素晴らしい演奏が他にあるとは思います。

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岡本 浩和

>ふみ君

そう言った気が・・・(笑)。
そっか、ムラヴィンスキーのチャイ5は素晴らしいけどもっと素晴らしいのがあるっていう話だったんだっけ?
失礼しました。
しかし、シルヴェストリの5番は予想以上に素晴らしかった。ご教示ありがとう。

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アレグロ・コン・ブリオ~第5章 » Blog Archive » コンスタンティン・シルヴェストリ15枚組ボックスより

[…] コンスタンティン・シルヴェストリの15枚組ボックス・セットが届いた。1969年にわずか55歳で亡くなったこの指揮者についてはほんの最近まで無関心だった。ほとんど無視していたと言っても言い過ぎではない。ところが、チャイコフスキーの第5交響曲を聴いてみろとふみ君から手渡され、いきなりジャブを浴びせられた。その後すぐに仙波知司さんから今度はショスタコーヴィチの第5交響曲を贈っていただきノックアウト。心底驚いた。 言葉で言い表せない怪演がそこにはあった。「怪演」とはすなわち超名演奏になる可能性もあり、超駄演に陥る可能性も秘める演奏。とはいえ、シルヴェストリの場合、どんな演奏になろうと実に面白い。まさに一期一会。1枚ずつ丁寧にじっくりと聴いていくことにしようか。 […]

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