スヴェトラーノフのレスピーギ「ローマ三部作」

20年前に発刊された「赤い盾」(広瀬隆著)を再読中。近現代を牛耳るロスチャイルド家の全貌が極めて念入りに、微に入り細を穿ち書かれているのがミソ。資本主義の世の中が結局一部の人々の手によって動かされているのだということが愕然とするほどよくわかる。
こういう書籍を読むと、世界に善も悪もなく、とどのつまりはどの立場で判断するかどうかなのだと考えさせられる。表があれば当然裏があり、光があれば翳があり・・・、世界の成り立ちがよく理解できて興味深い。現時点で序章「ワルトハイムの秘密」、第1章「金銀ダイヤの欲望に憑かれた男たち」と読み進めているが、以降第2章「地球のトンネル」、第3章「芸術の都パリの下水道」と続く。ここでは「ロスチャイルド家をめぐるナチス時代の音楽家の対立」なども詳細に論じられているが、これがまた目から鱗もの。クラシック音楽の世界も、いや、というより芸術そのものもビジネスとしてこの家の人々に牛耳られているのだから、この視点でモノを見る術を知っておくとこれまでとはまた違った「考え」に至るゆえ真に面白い。

歴史を塗り替えることは不可能だけれど、何が正しいのかを判断することは極めて難しいこともわかる。現代において悪とみなされている過去の事実もある観点からみていくと必ずしも悪とは言えないのかも・・・、そんな結論にまで至ってしまう。まるでモーツァルトの「魔笛」の世界のようだ。

スヴェトラーノフのレスピーギ「ローマ三部作」を聴いた。巷では昔から爆演として評判高く、一時は中古市場において高値で取り引きされていたとかいないとか・・・、そんなことが囁かれていた録音である。確かにものすごい演奏が繰り広げられる。アンサンブルの乱れやミスなどは完全無視。それよりも音の高揚に任せ、音楽を表現することに命を懸ける指揮者の業。こういうものはやはりその時その場にいて享受すべきものではないのかと、僕などは逆に冷静になってしまうような一期一会的楽音。

レスピーギ:
・交響詩「ローマの噴水」
・交響詩「ローマの松」
・交響詩「ローマの祭」
エフゲニー・スヴェトラーノフ指揮ソビエト国立交響楽団(1980.2.20Live)

一番の驚きは「アッピア街道の松」。笑ってしまうくらい粘着質で、最後のバンダが加わったファンファーレの見事なこと・・・。聴衆の熱狂的な歓声も収録されているので、その場にいた人は卒倒したのだろう。「ローマの祭」はほとんど漫画の世界(笑)。まさにお祭騒ぎのよう。無茶苦茶です・・・。

ところで、オットリーノ・レスピーギは特に晩年ムッソリーニ率いるファシスト党とも関係を深く持ったそう。ナチズムもそうだが、いずれも歴史の流れの中で出てきているもので、全体主義そのものを単独で是非云々することはできない(と僕は考える)。よって当時の彼のその思想や行動が「正しい」のかどうなのかまったく判断はつかない。三部作の中でも最も右寄りである「祭」をあえて指揮しない指揮者もいるが、イデオロギー抜きにして名曲であると思うし、スヴェトラーノフのこういう演奏を純粋に音楽として堪能するのも乙なものだと僕などは思ってしまう。能天気なんだ・・・、結局・・・。

一度きりのつもりで、そして命を懸けて聴こうという意気込みなら最高のレスピーギ。

6 COMMENTS

ヤマザキ

スヴェトラーノフの「アッピア街道の松」はローマ軍の行進というよりまるでゴジラの行進のようです。許光俊氏は「北極グマ血だるま大戦争」と言っています。

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岡本 浩和

>ヤマザキ様
素晴らしい音盤を拝借させていただき感謝に堪えません。
吃驚しました。
さぞかし実演で聴いたらと・・・。
失禁していたかもしれません(笑)

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ふみ

この演奏…(笑)僕も持っていますが、まぁ評価するも何も…という感じですよね。
でも、僕はローマの松に関してはカラヤン/BPOの普天門ライヴが最高だと思っています。僕だってたまにはカラヤン褒めるんです(笑)

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岡本 浩和

>ふみ君

(笑)だよねー。まぁ、一度きりの実演のつもりで聴くと最高でしょう。
カラヤン&BPOの普門館ライブ!!よくそんなもの買う気になったねぇ。
そんなにすごいの?

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ふみ

あの演奏は泣けます。ローマの松で泣ける演奏なんて他には無いですが、カラヤン/BPOの確執やカラヤンの身体的限界が来ている指揮ぶりなんかを映像から読み取って見てると、あぁ凄まじい人生だったんだなぁ…と。最後にカラヤンがにこっと笑うんですが、それがなんとも儚くて…
確かにカラヤン/BPOの演奏にも若干の綻びが出るようになった晩年の演奏(1984年)ですが、ローマの松は人類が成し得た最高のオーケストラ機能の極地だと思います。このローマの松を聴いて、本当に他の演奏が弱々しく聴こえてしまって聴かなくなってしまいました。
3月末に帰省するのでその時に持って帰って来ます。また4月にお渡ししますね。

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