功芳の第9

「赤い楯」の内容は1990年頃の情報でストップしている。いわゆるバブル期の最後の頃。東西ドイツの統一や天安門事件、ソビエトの崩壊あたりが最新のニュースということになっている。
あれからすでに20余年。時間の経過はあっという間だが、そして僕の脳内年齢はその頃でストップしているが、気が付くと2013年の誕生日を迎えていた。何と49歳になった。
昨日は朝比奈先生の92年の懐かしい映像を観た。ならばついでにその頃のものをもう少し探してみようと棚を漁り、面白いものを見つけた。同じ年12月にサントリーホールで収録されたもので、その日その会場に僕もいた。
宇野功芳&新星日響によるベートーヴェンの第9交響曲。

明日の八王子での市民自由講座の前哨戦である。(笑)テーマは「ベートーヴェン入門」。楽聖の挑戦と革新を軸に、交響曲を抜粋で聴いていただこうと目論んでいる。よほど昨年の講義が良かったのだろう、お陰様で定員170名のところ260名ほどの申し込みがあり、抽選になったとのこと。より一層気合いを入れるつもり・・・。

よりによってどうしてこういうゲテモノ(?)録音なのか(あ、もちろんこの演奏を明日聴いていただくわけではないので心配無用です)。
理由は簡単。ここには宇野氏らしい「挑戦と革新」があるから。一介の評論家に終わらず、朝比奈御大をして「評論家の名に傷をつけるから指揮は止めた方が良い」とまで言わしめ、それでもオーケストラを指揮することを止めなかった稀代の音楽評論家(本業は合唱指揮者)のとんでもない表現が、笑ってしまうほど「見事」だからである。まさにやりたい放題(とはいえ「エロイカ」ほど極端ではないのが救い)。

ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調作品125「合唱」
森美智子(ソプラノ)
安孫子奈穂美(アルト)
佐藤一昭(テノール)
水野賢司(バリトン)
TCF合唱団(合唱指揮/辻正行)
宇野功芳指揮新星日本交響楽団(1992.12.9Live)

第1楽章の終結部からずっこける(笑)。スケルツォの冒頭もいきなり急ブレーキで・・・。よくまぁこういう表現を考えつくものだと感心する。
ライナーノーツの宇神幸男氏の推薦文がすごい。何と「フルトヴェングラー以来の名盤登場!」と・・・。しかし、侮ってはならぬ。第3楽章アダージョに至り、この文言の意味が少しずつ理解できるようになるのだ。およそ「精神性」という言葉とは無縁のようなまるで上っ面の真似事が繰り広げられるように感じられるかもしれないが、少なくともここにはベートーヴェンが意図した「安寧」が確かに在る。実際に実演を聴いた時もアダージョ楽章には度肝を抜かれた。
傑作は終楽章。歓喜の主題が低弦で提示される直前の大きな「間」はフルトヴェングラー並(以上?)。それにほとんど聴こえるか聴こえないかという超ppの弦にゾクゾク・・・。それと相変わらずのティンパニの轟音。異様なテンポの伸縮。
コーダの最終は相当な加速だと当時は思ったが、録音で確認すると意外にそうでもなかった。久しぶりに面白かった。

 

 


11 COMMENTS

ふみ

…岡本さん、突然どうしたんですか?(笑)
でも、コウホウさんも新星との演奏はアンサンブルSAKURAに比べ、百倍まともですよね。

私はじっくりベト6、聴かせて頂きます。ありがとうございます。

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岡本 浩和

>ふみ君
本日はお疲れ様。
突然も何も・・・、功芳センセーを馬鹿にしちゃなりません。
この人のお蔭で僕はクラシック音楽に開眼したのです。
ザンデルリンクの「田園」楽しんでね。ぜひ感想を!

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ふみ

コウホウさんの「演奏」ではなく「評論」で目覚めたのではなくですか?(笑)
演奏も分からなくはないですが、やはりマトモに聴いてどうこう言う演奏ではない気がしますねぇ…
じっくり聴かせて頂きます!感想は期待せずにお待ち下さい(笑)

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岡本 浩和

>ふみ君
>「演奏」ではなく「評論」で目覚めたのではなくですか?

あ、それはもちろんそうです。(笑)

>やはりマトモに聴いてどうこう言う演奏ではない気がしますねぇ…

気じゃなくて、実際その通りです(笑)

酔っ払いついでに今日の記事は洒落・・・。

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みどり

ご自身の誕生日、しかも講座前夜に「宇野功芳」ですか!
いやぁ、すっばらしく器が大きくていらっしゃる!(笑)

ふみ様が仰っていた「数万倍」の意味が知りたくて、宇野さんの随分と
聴いたのです、新星とSAKURAのベートーヴェン。
未知の世界が広がっておりました…(笑)
深淵を無闇に覗き込んではなりませんね…素人には深過ぎました。

クラシックを聴いて爆笑するという事態はそれこそ「想定外」でしたが
笑い過ぎて苦しく、激しく体力を消耗し放心へ至る道のりを一種の
「カタルシス」と捉えられないこともない…?

…私めはミシェル・カミロで気分転換することにします(笑)

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岡本 浩和

>みどり様
みどりさんも新星とSAKURAを聴かれているのですか!
僕も相当聴きました(笑)。
まさに「未知との遭遇」ですね(笑)。

>笑い過ぎて苦しく、激しく体力を消耗し放心へ至る道のりを一種の
「カタルシス」と捉えられないこともない

ああー、言い得て妙です。

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ふみ

みどり様

お…そんな私の言葉のせいで無駄金を…いやいや、無駄金ではなかったですかね(笑)
しかし、すみません。もっと他にご紹介すべき演奏なんて山程あるんですが…

カタルシスというのは大賛成ですね。コウホウさん自身もそういった一種の破滅、クラスターと安静、虚無感のギャップを創り出そうとしています。畏れ多くもあたかもフルトヴェングラーみたく…

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ヤマザキ

岡本さんが宇野功芳の実演を聴かれたとは驚きました。宇野功芳は出谷啓と並んでストコフスキーを評価してくれる数少ない評論家なので著書もよく読みました。また彼の評論にかなり影響されてフルヴェン、クナ、ワルターそして朝比奈を聞くきっかけになりました。実演は聴けませんでしたが新星日響のCDはほとんど購入し聴きました。確かに面白かったのですが自身の評論に出てくる精神性とは程遠い演奏に違和感を感じ中古で売ってしまいました。
水野晴郎の「シベリア超特急」がとんでもない映画だったのと同様、評論と実演や映画製作は違うものだと感じました。
P.S.今日のクラシック講座は楽しみです。よろしくお願いします。

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みどり

ふみ様
お陰様にて貴重な体験を得られたことに感謝を申し上げます(笑)

東フィル、大阪フィル、日大なども聴いてみたのですが、宇野氏は何を
何処でお振りになっても弦・管・打楽器のいずれも特徴的な音作りを
なさっておられ、独自のスタイルが確立されているご様子(笑)

普段は聴かないワーグナーまで聴いてしまいました。
ブラームスもとんでもない代物ですね…

この方の「評論」で目覚めるって…岡本さんは懐が深い!(笑)

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岡本 浩和

>ヤマザキ様
本日はありがとうございました。それにまた新たな「新世界」の音盤を貸していただきありがとうございます。
いや、やっぱり評論家の宇野功芳は好きだったのでオーケストラを演奏するとなると聴かねばという一心でした。
今日も少しお話ししましたが、宇野さんの演奏はまさしく「マイクに入りきりません」。彼こそ実演で聴くべき演奏家ですね。一期一会のもので、録音に残して繰り返して聴くべき演奏ではありません。ですからヤマザキさんのおっしゃる「違和感」はその通りだと思います。

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岡本 浩和

>みどり様
一応全部を聴いておられるところがさすがです。
あのワーグナーは悪くないと思いますが・・・。同日のモーツァルトも。

>この方の「評論」で目覚めるって…岡本さんは懐が深い

いやいやいや、少なくとも80年頃の宇野センセーの影響力は多大なものでしたよ。
きちんとした評論でしたし。当時は吉田先生のモノよりよっぽど僕は信用しておりました。

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