マッケラスのグルック「アルセスト」(1981Live)を聴いて思ふ

gluck_alceste_mackerras_1981舩井幸雄さんが亡くなられた。若い頃、その著書に随分感化された時期があった。あの頃から舩井さんは、これからの時代は女性の時代であるとか、エヴァの時代だとおっしゃっていた。
まさに21世紀は女性の時代だと思う。いや、というより「女性性の時代」。そして、そのことは古くはギリシャの時代から語り継がれていたことだ。偶然にもこのところ頻繁にひもといている「オルフェオの物語」も女性の永遠の純愛が主題であるし、おそらく北方の神話を含めた過去の様々な文献を逡巡したワーグナーにおいても、その作品の中心テーマは「女性による救済」であることから芸術こそがそういう叡智を結集した大いなる産物であると僕は確信する。

人間はどこかで感知しているのである。しかし、社会が「男性のもの」になってゆくにつれ、特に産業革命以降世の中は一層競争にまみれ、そのお蔭で「思惑」と「思惑」のぶつかり合いが生じ、結果的に人が人を純粋に信じることができない「世知辛い」世界になったのではないのか・・・。

「アルチェステ」を聴いた。「オルフェオとエウリディーチェ」に次ぐ、グルックの傑作である。
この物語もそのタイトル通り女性が主役だ。何よりアルチェステの「自我」を捨て去る「覚悟」から物語が始まるのである。しかし、この女性の勇気に対して「対となる男性」が腰抜けではだめだ。「アルチェステ」においてはアドミーテが彼女の意思に触発され、自身も死を選ぶことを決意する。ところが、残念ながら死ぬのは一人だと・・・。
2人のこの勇気と健気な愛の表出をもって神アポロは双方を救う。なるほど、そもそも世界は女性なるものから生まれており、女性の決意をもって発火点と為し、それに男性が素直に追随する形で世の中は平和に治まるものだと解釈しても良いのかも。

グルック:歌劇「アルセスト」
ジャネット・ベイカー(アルセスト、メゾソプラノ)
ロバート・ティアー(アドメート、テノール)
ジョナサン・サマーズ(ヘラクレス、バリトン)
モールドウィン・デイヴィス(エヴァンドル、テノール)
ジョン・シャーリー=クワーク(大祭司、バリトン)
マシュー・ベスト(預言者、バリトン)
フィリップ・ジェリング(伝令官、バス)ほか
チャールズ・マッケラス指揮コヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団&合唱団(1981.12.12Live)

おそらく1776年のパリ改訂版による(ブックレットには詳細の記載がない)。序曲冒頭の悲痛な響きからしてこのオペラの重みが十分に伝わる。しかし、これほど重厚な音楽でありながら、音そのものは実に透明清澄。これは間違いなくマッケラスの音楽作りの為せる業。
そして、何と言ってもデイム・ジャネット・ベイカーのアルチェステ(アルセスト)!!
第1幕最後のアリア「おお、地獄の神々よ!」における何と高貴で深みがあり、しかも威厳のある歌唱!!さらに、第1幕最初の、王の回復を願う民衆の合唱も素晴らしいが、何より第2幕冒頭のバレエ音楽や第3幕フィナーレのディヴェルティスマンなど、管弦楽の洒落ていながらかつ勢いと前進性に溢れる音楽の魅力!!

女性の力は偉大なり。
舩井幸雄さんのご冥福を心よりお祈りします。

 


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