アンジェラ・ヒューイット ピアノ・リサイタル“The Bach Odyssey 2”

バッハの脳みそは一体どうなっていたのか?
縦の線と横の線が見事に調和する奇蹟の音楽大伽藍。
いわゆる練習曲的な(そして個人的な)音楽が、アンジェラ・ヒューイットによって筆舌に尽くし難い高貴な様相で奏でられた。ポリフォニー音楽の粋。

深い哀しみを湛えた音、また飛び上がらんばかりに弾ける喜びの歌。
そして、愛情込めて紡がれる舞踊。バッハの音楽にある俗的人間感情と、信仰露わにする聖なる思考がひとつになったとき、音楽は僕たちの心を鷲づかみにする。いかにも人間っぽい、多少のミスタッチはものともせず時に突進し、時に瞑想するヒューイットの演奏は極上だった。何て清廉で愛おしい音楽であることよ。
前半の白眉は、何といっても第4番変ホ長調BWV815。第1曲アルマンドから夢みるような美しい音に金縛りに遭ったよう。終曲ジーグの勢いと可憐な音に秘められた愉悦の爆発に心奪われた。最高だ。

ヒューイットはかく語る。

10歳の時、父は家族の為にあの偉大なニ短調の「トッカータとフーガ」を2台ピアノ8手の曲に編曲してくれました。私はバッハの曲に合わせて踊り、歌い、ヴァイオリンやリコーダー、またハープシコードで演奏しました。これらの経験が全てピアノの演奏に凝縮されました。
~プログラムより

間違いなくバッハを演奏するために生まれて来た人なのだろう。その演奏が素晴らしくないはずがない。

アンジェラ・ヒューイット
“The Bach Odyssey 2”
2017年5月30日(火)19時開演
紀尾井ホール
J.S.バッハ:
・フランス組曲第1番ニ短調BWV812
・フランス組曲第2番ハ短調BWV813
・フランス組曲第4番変ホ長調BWV815
休憩
・フランス組曲第6番ホ長調BWV817
・フランス組曲第3番ロ短調BWV814
・フランス組曲第5番ト長調BWV816
~アンコール
・ラモー:クラヴサン曲集第2組曲より第9曲タンブラン

休憩後、最初の第6番ホ長調BWV817に思わず涙。第1曲アルマンドのこぼれるような音の美しさ。ファツィオリの澄んだ、確かな音を操り、ピアニストがバッハへの深い愛を語る。第3曲サラバンドは何だかとても哀しかった。また、終曲ジーグは実に音楽的。
それにしても第5番ト長調BWV816の予想通りの大らかさ。第1曲アルマンドはいわずもがな、やっぱり第3曲サラバンドの透明感に参った。さらに、終曲ジーグの勢いと弾け具合は半端なかった。

ところで、謹厳実直なバッハに対し、アンコールのラモーは、フランス組曲とほぼ同時期に作曲されたクラヴサン曲集第2組曲からの1曲。いかにもフランス的な大らかさと安心感。何という陽気な柔らかさ。
昨日”Odyssey 1”のアンコールは「ゴルトベルク変奏曲」のアリアだったらしい。行けなかったことが残念。

 

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4 COMMENTS

雅之

バッハの音楽は、人体の毛細血管の血流を俯瞰するような醍醐味があると個人的に感じています。

だから、演奏の合間には「給水」も必要なのかと(笑)。

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畑山千恵子

私は2日間、聴きに行き、改めてバッハの音楽を再認識しました。インヴェンションとシンフォニアでも様々な表現ができること、フランス組曲の多様性にも開眼しましたね。

返信する
岡本 浩和

>雅之様

>バッハの音楽は、人体の毛細血管の血流を俯瞰するような醍醐味がある

いつもながら的を射た表現!!ありがとうございます。
演奏の合間に「給水」が必要なのもわかります。そういうことだったんですね!(笑)

返信する

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