ヤンソンス&RCOの「新世界」交響曲

久しぶりに宇野功芳氏の新著に触れた。ある時期からどうもその論調に偏りがあるように感じられて、「レコード芸術」の月評も含めてあまり読まなくなった。若い頃、相当に信奉したその反動でもあるのだろうが。

「音楽」と「音」の匠が語る『目指せ!耳の達人』~クラシック音楽7つの”聴点”~(ONTOMO MOOK)

山之内正氏との対談という形で独自の観点で「音楽の聴き方」というものが丁寧に語られる。そこでの内容に思わず膝を打つものもある。やっぱり僕は「アンチ・コーホー」にはなり切れない(笑)。例えば、「ホールの響きがテンポ、タイミングにも影響する」というところで宇野氏は次のように語る。

テンポというものは、オーケストラの人数によっても、聴衆の数によっても異なるし、特にホールの大きさ、その残響の長さに深い関係があるわけです。だからメトロノームによるテンポの指示というのは笑止千万(笑)。ベートーヴェンは晩年にメトロノームが発明され、その数字を書き入れていますが、あれは大失敗ですよ。数字で規定してはいけないんです。「Allegro Moderato」「Andante con moto」なんて良いじゃないですか。どのようにでも解釈できて(笑)。マーラーなどあれだけ細かく指示を書き入れているにも関わらず、数字は書いていませんからね。それはマーラーが指揮者だからです。振るたびにテンポが違うから「数字など書いても意味がない」ということをよくわかっていました。
P49

何と的を射た意見なのだろう。そもそも音楽とは「譜面」で完璧に表現できるものではない。それに確かに何でも数字化すれば客観性が出て「わかりやすい」のだろうけれど、それでは一方で「大事なもの」を失ってしまう。今の時代、音楽に限らず何事も数字化し、測定可能にすることに皆奔走するが、人間の「感性」というものにまでそのことが及ぶにつけ、何てナンセンスなのだろうと僕などは思ってしまう。いわゆる「曖昧さ」が芸術表現においては特に重要なんだとあらためて確信した次第。
山之内氏の「ところで、『テンポというのは楽譜自体に内在しているもの』ではないでしょうか」という言葉に続き、宇野氏は応える。

同じことをブルーノ・ワルターは言っています。「テンポを決めるのは難しいことだが、どの曲においても『これ以外のテンポはあり得ない』という箇所が存在する」と。指揮者はそれを見つけて、そのテンポを基本にするべきだと。とても高度なことですが、見つけるだけなら意外に易しいです。主題よりは経過句のようなところにあることが多いですね。
P49-50

なるほど、納得。「内在しているもの」を即座に見分けられるか否かがそもそも音楽家の慧眼なんだ。

過日、山崎潤さんからお借りした「新世界」交響曲を聴いてみた。宇野氏は、音盤は基本的に1回しか聴かないという。しかもできるだけ演奏者の先入観を捨て、一期一会のつもりで耳にするのだと。もう聴き飽きるほどの名曲なので、僕もそういう姿勢で対峙した。驚くほど瑞々しい表現で感動した。おそらくひとつはSACDハイブリッド盤であることに起因すると思う。ここのところ特に思うのが、CDの音質について。特に古いものは音の輪郭が完全にぼやけてしまっていて極めて感興を削ぐ(先日のミケランジェリのショパンもそうだった。SACDハイブリッド化を強く求む)。昨今見直されているアナログ・レコードのもつ「温かさ」にも欠ける。その点ではやっぱりデジタルというのは限界があるのだろうか。それに、CDというハードそのものも古いものは30年ほど経過するが、諸々の理由で実際聴けなくなっているものも僕の手元にはある。
今やアナログ派、またはSACD派と、音にうるさい輩はそのいずれかに二極化していっているそうだが、わからないでもない。この際、SACDがもう少し安価になればいいのに。(EMIなどのシングル・レイヤー盤は1枚4,000円以上の価格だからおいそれと手を出せない)

ドヴォルザーク:交響曲第9番ホ短調作品95「新世界より」
マリス・ヤンソンス指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(2003.6.6Live)

いずれの楽章も理想のテンポ。名作の名演奏。間違いない。

 

 


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4 COMMENTS

ふみ

以前言ったままですが、これは良い演奏ですよね。何と言ってもRCOの音色が絶品。
なんだかんだ、新世界って聴く度によく出来た曲だなぁと痛感します。というより、ドヴォルザークは通俗化した作曲家の中では楽曲の構造感や対位法の処理なんかがかなり高度な部類に入ると思います。

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岡本 浩和

>ふみ君
おっしゃる通り。とはいえ、ドヴォルザークに相当詰めの甘い僕です。
同系統ならむしろチャイコフ好きー。

返信する
岡本 浩和

>ヤマザキ様
両方ですか!!(笑)
まぁでも、チャイコとドヴォは兄弟みたいなもんですかね・・・。(笑)
まだクリヴィヌ盤を聴いていないのですが、そのうちに聴かせていただきます。
ありがとうございます。

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