僕にとってヨーゼフ・ハイドンはヘンデル同様ずっと遠い存在だった。
もともと人間学、心理学などに興味があり、そういうことを生業にしてきたからかどうなのか、作曲家の詳細なバックグラウンドや嗜好がわからないと、どうにもその創造物にものめり込むことがなかったように思う。要は、ヘンデルもハイドンもどういうわけか若い頃のデータがあまりに少なく、彼らの生き様を知ろうにもその術がほとんどないように思えてならなかった。
それでもヘンデルに関しては山田由美子氏の興味深い研究などから、楽曲が生れた経緯や仕事に関しては詳細に理解でき、これまで以上に興味を持つようになった。しかしながら、彼のプライベートや人となりとなるとまったくわからないところが少々歯痒い。ハイドンについても然り。少なくとも成人するまでの、いわゆるウィーンの少年聖歌隊に入隊する以前やその後の詳しい生き様がほとんどわからず、やっぱり人として「親近感」を覚えるには程遠い。
とはいえ有名な音楽はもちろん、そうでないものも相応には聴いた。それでも、同じ古典派ならばモーツァルトやベートーヴェンに比較して圧倒的に少ない。
来週の「クラシック音楽入門講座」のテーマがハイドンということもあり、今月に入ってから憑りつかれたように彼の音楽を聴き漁っている。特に、先日来「歌」をもう少し勉強しようと考えていることもあり、珍しくハイドンの歌曲集を取り出した。エリー・アメリングが歌う全集。これが驚くほど瑞々しく、時に可憐で、時に勇猛で、大変に心に訴えかけるメロディの宝庫。モーツァルトに優るとも劣らず、ベートーヴェンに比較しては実に深みのある音楽がそこかしこに横溢する。
例えば、「神よ、皇帝を守らせたまえ!」。イギリス国家にインスパイアされ、1797年に作曲されたこの歌は、ローレンツ・レオポルト・ハシュカの詩に基づいている。今や「ドイツ国家」(ハプスブルク家没落まではオーストリア国家だった)としても有名だけれど、ハイドン自身が弦楽四重奏曲の主題にも使い回しているほど魅力的なもの。そうそう、クララ・シューマンがウィーンの想い出に、この旋律をテーマに即興曲を創作しているが、これもまた素晴らしい作品。
神よ、皇帝フランツを守らせたまえ、
我らのよき皇帝フランツを!
幸福の極めて明るい輝きの中で
皇帝フランツが長生きされんことを!
皇帝の行くところどこにでも、月桂樹の枝が
皇帝の名誉を讃え、花咲く冠とならんことを!
神よ、皇帝フランツを守らせたまえ、
我らのよき皇帝フランツを。
ハイドンが生きたその時代にまさにロスチャイルド家が誕生し、いわゆる今の資本主義世界が確立されていくのだが、一方で彼がモーツァルトに誘われてフリーメイスンに入会している事実も真に興味深い。そういえば、1809年5月、ナポレオン率いるフランス軍にウィーンは包囲され、占領された(1800年にナポレオンがフランス銀行を設立している)。ちょうどその最中(5月31日)77年の生涯を閉じたハイドンの脳裏に去来するものは何だったのか・・・(当時の芸術家はほとんどが「赤い楯」とつながりがあっただろうから意外に恐ろしいことを考えていたかも・・・(笑)それに、彼の渡英も意外に諜報活動の意味もあったかもしれないし・・・)。何にしてもハイドンの歌曲は隠れた名作。
人気ブログランキングに参加しています。クリックのご協力よろしくお願いします。
にほんブログ村
[…] なるほど「皇帝」四重奏曲についてもそうかも。有名な第2楽章の主題などは何度聴いても心を打たれるのだけれど、全曲を繰り返しとなると辛い(少なくとも現在の僕には)。ならば原曲である「皇帝讃歌」を何度も聴く方がよほど感動的か・・・(笑)。 […]