イアン・ボストリッジのブリテン歌曲集

英国音楽についてはやっぱり疎い。イギリスというとロック音楽というのが僕の中では定説で、エルガーやらRVWやら、あるいはディーリアスやら(古いところではダウランドやタリス、バードもそう)大事な音楽家はたくさんいるものの、随分軽んじてきたものだと反省している。
ベンジャミン・ブリテンの音楽についても注意深く聴いてこなかったから今の時点で僕から論ずべきことは何もないのだけれど、以前購入したイアン・ボストリッジの5枚組ボックスに彼の歌曲を収めたものがあったので耳にしたところ、いかにも英国貴族趣味的なくぐもった音調の心に染み入る音楽であることを発見し、以来時々取り出しては繰り返して聴いている。しかもボストリッジの声質ととても合う。こういう興味深い「出逢い」があるから、音盤蒐集は止められないというもの。

今年はブリテンの生誕100年という記念年。そうか、まだ100年だったんだと思わずため息。英国とも密接なつながりのあるヘンデルやハイドンに目覚めつつある昨今ゆえいっそのことここまで手を伸ばしてみようかとも考えてみる。

英国音楽の特長は、王族や貴族のもつ崇高さあるいはスノッブな雰囲気と労働者階級のもつ土着的荒々しさが不思議に同居しているところ(だと僕は思う)。ロック音楽にせよクラシック音楽にせよ同じような印象を僕は持つ。古より身分の垣根が明確にある国だけれど、音楽というのは何だかそういう区別を超えてしまうものなのじゃないか、まさに”No Border”という言葉が相応しい、そんな風に僕は思うのだ。

ところで、ブリテンはその私生活においていわゆる「ゲイ」だったことが災いし、長く爵位をいただけなかった。しかしながら、性癖が何であろうと、彼の芸術のもつ「包含性」というか「包容力」はとても普遍的なものであり、おそらくそれは彼が生来そういう「性(さが)」だったことに依るのだろうと僕は推測する。上手く言葉で表現できないのだが、ヘテロよりホモの方が「共感力」が高く、よって創造する音楽についても驚くような「共感性」を帯びるのだろうと思うのだ(あくまで独断と偏見。あしからず)。

ブリテン:
・ソプラノまたはテノールと弦楽のための「イリュミナシオン」作品18
・テノール、ホルンと弦楽のための「セレナーデ」作品31
・テノール、7つのオブリガート楽器と弦楽のための「夜想曲」作品60
ラデク・バボラーク(ホルン)
サー・サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(2005.4録音)

ブリテン特有の、しいて言うなら中庸の「色気」。「イリュミナシオン」にのっけから惹かれる。
第2曲「都市」の追い立てられるような音楽が妙にツボにはまる(ちょっと違うけれどショスタコの第8シンフォニーのアレグロ楽章に通じる切迫的快感)。ボストリッジの表情付けが何とも巧い。第3曲b「古代」は弦楽の伴奏が美しさの限り。ベルリン・フィルがこれまた見事。それと、第6曲「間奏曲」のボストリッジの意味深に囁きかけるような歌声。アルテュール・ランボーの歌詞はたった1行、「私だけがこの野蛮な道化芝居の鍵を持っている」というもの。参った・・・。
続いて、「セレナーデ」。何と言ってもバボラークがやたらに上手。第4曲「エレジー」の息の長い前奏など涙もの。ベン・ジョンソンの詩による第6曲「讃歌」はホルンの細かな動きに合わせ、イアンが丁寧にかつ軽やかに音楽をする。

人の声というのは、「巧ければ」という条件付きだけれど、特に人の心に直接に訴えかける。

 

 


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