カラヤンの「サロメ」

「目指せ!耳の達人」の中で、宇野功芳氏の次の言葉に納得した。

ぼくは、ごく弱い音で聴いている人は信用できないな。昔ある有名な評論家が、もう蚊の鳴くような音で聴いていました。しかも、スピーカーからの音が直接耳に届かないように、寝そべって聴いている。そうすると、やはり批評が違ってきますよ。
(P149)
話は少し戻るけれども、ぼくは大きな音で聴いている人は信用できるな。目いっぱい聴いているわけですから。聴かされる方はたまったものではないですが(笑)。
(P150)

それぞれの住宅事情もあるからそうそう大音量で聴くわけにもいかないだろうけれど、確かにそうだと僕も思った。これを読んで、いつもより幾分音量を上げて聴いてみた。驚いた。たったそれだけで何とリヒャルト・シュトラウスの音楽が違って聴こえるのだ。例えば、カラヤンの「サロメ」などはこれまであまり思い入れがなかったのだけれど、何ともこの色彩的な楽音をいかにもスマートに、それでいてあまりに妖艶に紡ぎ出すカラヤンの類稀な力量にあらためて気づかされたとでも言うのか。ベーレンス扮するサロメの歌う最後のモノローグ「ああ!私はお前の口に接吻したわ」のあまりにも巨大で、深淵、しかも繊細な音楽に心震えた。あまりに陶酔的で気違い沙汰!!なるほど、ここにはヴェルディの「オテロ」に通ずる「歌」がある。ワーグナーの影響を受けながら、昇華し、しかもイタリア・オペラの巨匠のイディオムまで採り入れて「独自の世界」を我々に提示したということか。このことはほんの少し大音量で聴くまで「わからなかった」。

R.シュトラウス:楽劇「サロメ」
ヒルデガルト・ベーレンス(サロメ、ソプラノ)
カール=ワルター・ベーム(ヘロデ、テノール)
アグネス・バルツァ(ヘロディアス、アルト)
ヨセ・ファン・ダム(ヨカナーン、バス)
ヴィエスワフ・オフマン(ナラボート、テノール)
ほか
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1977.5.9-11,13,16-18&1978.5.2録音)

それにしても録音にかける日数の半端なさ。指揮者により考え抜かれた解釈が、おそらく何度もやり直しの後編集作業を経て音盤としてリリースされる。こういうモノが悪かろうはずがない。

何よりヒルデガルト・ベーレンス!!
物語の上でサロメは16,7歳の処女。そんな乙女がこれほどまでに官能的で大胆な歌唱をみせるとはどういうことか?もちろんベーレンスはそのハードルを軽々と超える。しかも、単に超えるだけに留まらず、少女らしい可憐な(?)一面も「歌」の中に表現するのだ。

ヨカナーン:こわくはないのか、ヘロディアスの娘?
サロメ:お前の口に接吻させて、ヨカナーン!
ヨカナーン:不倫の娘よ、この世にただひとり、お前を救うことのできる人がいる。さがしに行け!その人はガリレアの海で小舟に乗り、弟子たちに話をしている。海岸に跪いて呼べ、その名を呼べ!もしお前のところへ来たら―事実その人は、自分を呼ぶ者すべてのところへ来るのだ―その足もとに身をかがめて、罪業の許しを乞うがよい。
サロメ:お前の口に接吻させて、ヨカナーン!
ヨカナーン:呪いあれ、姦淫の母の娘よ、呪われてあれ!
サロメ:お前の口に接吻したいわ、ヨカナーン!
ヨカナーン:私はお前を見たくはない、お前は呪われている。サロメ、呪われているのだ。

第3場におけるサロメの預言者ヨカナーンへの一方的な情欲とヨカナーンの拒絶・・・。このシーンの音楽だけでリヒャルト・シュトラウスの「天才」を垣間見る。

 

 


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7 COMMENTS

Judy

聴欲
コンブリオさんのヘンデルからハイドン、U2に至ってのイギリスに関する考察などとても楽しく拝見してます。そして食欲と同じく聴欲っていうのもあるんだな〜と感じました。毎日毎日かなり多岐・多量にわたる音楽をこんなにも聴いて、しかもしっかりとブログまで書いている。ブログのなかには感動だけではなく、発見も記されていてとても読み応えがあります。コンブリオさん睡眠時間を削っているのでは?でも、こうして体力がある間にどんどん聴くのはいいですね。かくいう私も若かった頃は好きな映画を一日6本(映画館3ヶ所はしご)という記録があります。その頃観たり感じたりしたことが還暦過ぎた今は最高の財産になっているんです。そのかわり過ぎた途端に、好きな音楽を聞いていても居眠りという現象が起きて来ました。コワイですね。あ、ところでふみくんにお薦めいただいたミケランジェリいいですね。毎日Chaconne聴いてます。ありがとう。

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Judy

サロメ

すっかりサロメについて書くのを忘れてました。カラヤンのを音量を高くして聴くのはいいでしょうね。シュトラウスは薔薇の騎士もサロメも官能の音色が飛びきりですね。遥か昔にSF Operaでサロメを上演した際、主役が一瞬「全裸」になるシーンがあるというのでオペラグラスをしっかり持って確認しました。そしたら隣に座っていた(当時5年生)の娘が「ママは肝心な所で私にオペラグラスを貸してくれなかった!」とカンカンに怒ったのです。オペラを聴きに行って、歌手の全裸シーンを逃したことで母子喧嘩になるなんてかなりいい加減なオペラファンでした。その娘も三十路を過ぎ、まもなく婚約です。Happy Mother’s Day!

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岡本 浩和

>Judy様
いつもお読みいただきありがとうございます。
「聴欲」ですか!なかなか良い言葉です。(笑)
毎日聴いて書くことが日課になって久しいですが、自分自身の振り返りでもあるので、楽しく書かせていただいております。もちろん睡眠時間は削りません(とはいえあまり長時間は寝ていられない性質なのでその意味では削っているのかもしれませんが・・・笑)。
しかしながら、映画を1日6本ですか!!それはすごいです。映画は僕は1本が限界ですね。
あと、ミケランジェリは「シャコンヌ」以外も最高ですよ。

それと、「サロメ」の件。興味深い思い出話をありがとうございます。お嬢さんの気持ちよくわかります。主役の全裸シーン、僕も観たかったです(笑)。

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ヤマザキ

宇野功芳氏の音楽を大きい聴く人の話全く同感です。私も家族に文句を言われながら、大きい音で聴いています。

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岡本 浩和

>ヤマザキ様
すばらしい!
しかしながら、大音量で聴ける環境にる人は少ないのではないでしょうか。
羨ましい限りです。

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Judy

周りを来にせずに大音響を楽しむ場合はコンサートチケットを買ったつもりでイヤホーンの極上を入手するのがいいのでは?

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岡本 浩和

>Judy様
それは名案です!しかしながら、僕はイヤフォンやヘッドフォンが苦手でして。
耳がおかしくなりそうで・・・。

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