「崩す」という表現は正しくないかもしれない。
記号をいかに読みとり、音化するかにばかり意識を措くのでなく、もっと自由に振舞えばよい。音楽とは文字通り「音を楽しむこと」だと思うから。
マルチン・グロホヴィナ・トリオの”Chopin Visions”というアルバムを聴いて思った。
自由な飛翔こそがジャズの使命とでもいうのか。
ショパンの音楽が、・・・ありふれた、今となってはもはや日常的に聴くことのなくなったショパンの音楽たちが、新たな装いで、しかも、人間的な激情と愛を伴って表現される様に、彼の音楽の内にある根源的な、魂を癒すパワーをあらためて確認した。
音楽は楽しくなければならない。
そして、音楽にはそれを作った人の愛や思いが内在するゆえ、それを明確に感じさせる演奏でなければ聴く意味がない。あえてそう断言しよう。
“Prelude in e”が切ない。
“Mazurka Surprise”などは、わずかに楽想の片鱗が垣間見えるものの、「吃驚」という題名通り恐るべき展開を魅せる。その即興的エネルギーに、もしもショパンが聴いたなら、大絶賛したのではないかと思えるくらい。すべてのマズルカをショパンの最高傑作だと考える僕にとって、これはもう衝撃以外の何物でもない。
・Marcin Grochowina Trio:Chopin Visions (2014)
Personnel
Marcin Grochowina (piano)
Michael Kiedaisch (drums)
Wolfgang Fernow (bass)
中間部を見事に料理する洗練された“Scherzo in b”の、言葉にならない奇蹟。
ミヒャエル・キーダイシュのテクニカルなドラムスが軽快に轟く様に納得。
そして何より、楽想が分断され、ミニマル的な、ほとんど別の作品に仕上がる”Prelude in g”における後半のフリーな、正気を失った完璧なるインタープレイに舌を巻く。ショパンの原曲が素晴らしいがゆえの完全なる即興術。恐れ入る。
続いて、久しぶりにリチャード・グードのショパンを聴いた。
熱の入った、しかし透明で冷徹な響き。
リハーサル中も、ピアノの傍らには本がある。音が途絶えたので覗いてみると一心不乱にバルザックに読み耽っていたりするし、どうやら本番直前の楽屋でも気持ちを落ち着けるために本を読んでいるらしい。ニューヨークの自宅は、マーシャの本と合わせて6000冊の蔵書で足の踏み場もないという。
(中村ひろ子)
~WPCS-5094ライナーノーツ
僕は音楽家ではないが、どんなときも一心不乱に本を読むというのはわからなくもない。それによって獲得した集中と内なる静寂が、音楽に良薬となるのだと思う。
傑作「幻想ポロネーズ」の落ち着いた静けさは、おそらく直前の読書による精神的安定から生ずるものなのだろう。楽譜から読み取った設計図を正確に形にする魔法。ここには間違いなく愛がある。
ショパン:
・ポロネーズ第7番変イ長調作品61「幻想」
・ノクターン第16番変ホ長調作品55-2
・マズルカ
―第7番へ短調作品7-3
―第29番変イ長調作品41-4
―第11番ホ短調作品17-2
―第10番変ロ長調作品17-1
―第13番イ短調作品17-4
・スケルツォ第4番ホ長調作品54
・舟歌嬰ヘ長調作品60
リチャード・グード(ピアノ)(1996.6&1997.6録音)
一層素晴らしいのは、素朴な5曲のマズルカ集。
そのあまりの内省的な響きは、ショパンの祖国への憂いや悲哀を投影する。例えば、作品17-1の弾ける民族性と作品17-4の沈潜するそれの対比(心に迫る何という懐かしさ!)に思わず感涙。ちなみに、リラックス・ムードで奏されるホ長調スケルツォも堂に入った表現。さらに、「舟歌」は冒頭から切れば血の出るような温かさで、今日のような陽気な夏日にぴったりのもの。
2種のショパンを聴いて思ったこと。
音楽は、形よりも心が大切であるということ。
演る側も聴く側も、何を措いても楽しまねばならないということ。
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岡本様
マルチン・グロホヴィナ・トリオ、採り上げてくださりありがとうございます。
グロホヴィナ氏は本当に素晴らしい音楽家だと思うので、
日本でも活動が知られるようになることを願っています。
あの即興をBlue NoteかCotton Clubくらいの距離感で
堪能してみたいものです。
布教活動に勤しみたいと思います(笑)
>みどり様
こちらこそ貴重な情報をいただきありがとうございます。
日常積極的に情報収集を怠っているものですから、世界の知られざる音楽家に出逢えるのは望外の喜びです。
正直、このアルバムには驚きました。
おっしゃるようにぜひともBlue NoteかCotton Clubあたりで聴いてみたいところです。
布教活動がんばってください!(笑)
[…] 何度聴いても、否、聴くたびにその素晴らしさに驚嘆させられるのが、リチャード・グードのショパン。ショパン晩年の作品と、故郷への哀愁と憧憬が刻印されるいくつかのマズルカを […]