ヴェンゲーロフ・フェスティバル2013 弾き振り公演

お祭最終日。怒涛のような数日があっという間に過ぎたが、今宵も素晴らしい演奏が繰り広げられた。それにしてもマキシム・ヴェンゲーロフのスタミナたるや半端でない。感性に溢れ、しかも記憶力も抜群とくる。一部の隙もない才能・・・、畏れ入る。
何とも色彩豊かで七色の声色を駆使する音色。時に繊細で、時に図太く。しかも、音楽によって歌わせ方が自ずと変化するのだから器用なことこの上ない。
終始余裕のあるスタイルで、しかしあくまで敬虔な心構えを忘れることなく、まるで愛弟子を引っ張るかの如くの如才なきリーダーシップの妙。
はじめのバッハは、弱冠18歳の山根一仁を包み込む優しさに満ち、センシティブな音楽が終始鳴り続けた。まさに「愛の交歓」とも呼ぶべき作品が時間の流れとともに現れては消え、消えては現れる。
それにしても山根君は随分健闘した。今後に期待できる新星だと思う。
チャイコフスキーにおいてはあえて師匠に華を持たせる粋。やはり人間的にもバランスのとれた素敵な人だとみる。

ヴェンゲーロフ・フェスティバル2013
弾き振り公演
2013年6月13日(木)19:00開演
サントリーホール
・J.S.バッハ:2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調BWV1043
山根一仁(ヴァイオリン)
マキシム・ヴェンゲーロフ(ヴァイオリン&指揮)
・チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品35
マキシム・ヴェンゲーロフ(ヴァイオリン)
ヴァグ・パピアン(指揮)
~アンコール
・J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番ト短調BWV1001~アダージョ
休憩
・リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェヘラザード」作品35
マキシム・ヴェンゲーロフ指揮東京フィルハーモニー交響楽団(ヴァイオリン独奏)

チャイコフスキーは急遽指揮がヴァグ・パピアンに変更。聞くところによるとマキシムの指揮の先生なのだと。なるほど、昨日のリサイタルでピアノが主導権を握るシーンが道理で多々あったはずだ。裏事情は知らないが、「俺にも指揮をさせろ」と脅したのかどうなのか(笑)、あるいはマキシムの師に対する愛情の表れなのかどうなのか、または体力の保持という現実問題なのか、理由は様々考えられるが、この際それはどうでもよい。肝腎のパピアンのパフォーマンスは、そのピアノ演奏同様動きが激しい。その分オーケストラがいかにも発奮するように見えるが、何と言ってもやはりここの主役はヴェンゲーロフ。師にバックを任せつつも主張すべきところでは徹底的に自身の色に染める。
さすがに祖国の音楽だけあり、作品そのものが血となり肉となっている。相変わらず安定したマキシムのヴァイオリンは歌うときにはとことん歌い、爆発すべきときには強烈な爆弾を落とす。それでいてにわかに信じがたいほどの繊細な美音に終始するのだから、もうこれは「止められない止まらない(笑)」愛撫のようなものである。堪らない。アンダンテ楽章の静かな調べにはロシア人ならば必ず持っているのであろう「ノスタルジア」が横溢する。続くフィナーレの無窮動的音楽の内側にも哀愁が残る。
アンコールのバッハについては・・・、言葉は不要。
当然だが、ここまですべて暗譜。もちろん休憩後の「シェヘラザード」すらそう(一体彼の脳みそはどうなっているのだ?)。

その「シェヘラザード」は・・・、まぁとにかく器用。指揮棒をもって指揮するかと思えば、ヴァイオリンに持ち替えくるりと客席側を向いて独奏ヴァイオリンを披露する。その繰り返し。とにかく独奏の天才的歌い回しに惚れ惚れ。それとさすがに弦楽パートの歌わせ方が実に上手い。

終演時21時半。さすがにアンコールはもうなかった・・・。
お疲れ様でした。

 


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3 COMMENTS

“スケルツォ倶楽部”発起人

有言実行! 全公演を 手にとるような良レポート、ありがとうございました!
ご堪能されたようで ひたすらウラヤマシイです。リサイタルも良かったようですね。
ヴェンゲーロフ、今後の活躍 楽しみですね。大手レーベルにも復帰してもらいたいものです。
チャイコフスキー、やはり独奏に専念したとのこと、正解と思います。
それでも 「シェヘラザード 」、なんと 弾き振りだったとは・・・ 前代未聞ではないでしょうか
ソリストとしての力量が 指揮者としての統率力と同等でなければ、説得力を持ち得ないでしょう。
さすがに 有名な演奏家が これを試みたっていう話は 聞いたことありません。
マゼールならやったかなー?  って、脱線失礼しました (^^ゞ

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岡本 浩和

>“スケルツォ倶楽部”発起人様
リサイタルは本当に素晴らしかったです。
タイトなスケジュールにもかかわらず、あのヴァイオリンの安定感は驚異的でした(いずれの回も)。
「シェヘラザード」の弾き振りというのは前代未聞でしょうね。
しかし、完璧にやり切ってました。おそらくコンマスの荒井さんの力も大きいのではと思います。
マゼールなら・・・、あり得るでしょう!(笑)

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