雨の御堂筋

beethoven_3_2000_asahina.jpg生憎の天気。大阪の街を訪れたのはいつ以来だろう?おそらく2002年2月7日、その日ザ・シンフォニー・ホールにて営まれた「故朝比奈隆お別れの会」にはるばる東京から参列し、先生の遺影を前にベートーヴェンの第7交響曲第2楽章などを涙しながら聴いて以来のことと記憶する。確かその日以降大阪には足を踏み入れていない・・・。
19歳まで関西圏に育ったにもかかわらず、僕は大阪のことはよく知らない。今や26年という年月を共にした東京という都市のほうにむしろ詳しい。滋賀の山奥育ちの若者の行動範囲は極めて狭く、せいぜい京極辺りを闊歩する程度。もちろん奥手の高校生だったゆえ、友人らと少々ゲームセンターに浸ったことは数度あるものの、基本的にはいわゆる音盤屋巡りを繰り返すのみ・・・。嗚呼懐かしや。

大阪「輝き塾」での講演会が無事終了した。前半1時間が「人間力」をテーマにした僕の講演、後半30分が愛知とし子ピアノコンサート。20名ほどのお客様、それも大方が僕より年配の、人生という意味でも仕事という意味でもはるかに経験の豊富な方々を前にしてのお話はいさかか緊張した。それでも時間を経るにつれいつもの本領発揮で、自分的には納得の時間であった。そう、思う存分勝手気ままに語らせていただいたということだ。感謝。

ところで、朝比奈先生が亡くなるまで毎夏東京で開催された大阪フィルの東京定期公演。1990年以降、そこに参加することはほぼ毎年の恒例行事となった。天覧コンサートでのブル5、最後の定期となった2001年のブル8、そう、マーラーの「復活」や「大地の歌」もあった。そのどれもが忘れられない思い出。帰宅後、あえてラス前である2000年の東京公演の録音を聴く。先生の得意とした「英雄」だ。

ベートーヴェン:交響曲第3番変ホ長調作品55「英雄」
朝比奈隆指揮大阪フィルハーモニー交響楽団(2000.7.23Live)

いつもの如くの提示部反復はいただけないが、それでも安定感、重量感のある朝比奈隆の「エロイカ」である。何度も先生の「エロイカ」の名演に触れた。僕の中での最高の名演は1989年、新日本フィルとのツィクルスでのライブ。あの時の先生の充実振りは後にも先にもない。実相寺監督の例の映像がようやくDVD化されるようだが、第9だけはLDとは別日の演奏で(それは僕が聴いた日のまさに演奏だと思うが)、ようやく陽の目を見る。楽しみでならない。

2000年の先生の「エロイカ」は残念ながら記憶に新しくない。同時に舞台にかけられた第1交響曲の方はもっと覚えていない。それでも朝比奈隆の思い出を手繰ってゆくには避けることのできない演奏であることがCDを聴いてみて如実にわかる。こういうベートーヴェンを鳴らす指揮者はもう出まい。

※ちなみに今日のリサイタルでの曲目は、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」、ショパンの「華麗なる大円舞曲」作品18、そしてガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」。いずれも熱演でした。


2 COMMENTS

雅之

おはようございます。
4月8日付、ブログ本文《社員の意識変革、組織活性化の「鍵」は社長の「人間力」にあり!》へのコメントの続きです。
http://classic.opus-3.net/blog/cat29/post-102/#comments
>付け加えるなら、良い意味での「緊張感」の根底には各人の責任感と関係性によって育まれた「愛」が流れていると思うんですね。「情」ではない「愛」がです。部下を厳しく叱れるのも「愛」ですし、上司に率直にモノが言えるというのも「愛」あってゆえのものだと思うんです。
そういう意味で指揮者とオーケストラの幸せな関係として思い浮かぶのは、朝比奈先生と大阪フィルですね。先生はオケを叱咤していましたが、オケは先生を心底尊敬し、愛してましたよね。まさに理想的な、町工場の社長と従業員の関係です。オケははっきりいって上手くありませんが、先生の指導の下、120%、200%、いや、それ以上の潜在能力を楽員各自が発揮できたのでしょうね。その結果、聴くほうとしての顧客満足度も高くなったから、固定客も増え続けました。
朝比奈先生はマネージメント能力にも長けていましたし、関西を中心に財界にも顔が利きましたから、活動資金面でも、オケは随分助けられましたね(ソフトも売れたし・・・笑)。現在、大阪府の財政非常事態の折、橋下知事と交渉する代表が朝比奈先生だったら、どんなにやり易かったでしょう。
今回ご紹介の演奏の記録、DVDで持っています(オクタヴィア・レコード OVBC00002)。やはり素晴らしいです。新日フィルとのツィクルスの、実相寺監督の映像、私もLDで持っていました。DVD化は、おっしゃるように、とても楽しみですね。
朝比奈先生は、松下幸之助や本田宗一郎等と並ぶ、創業者的、叩き上げの心意気を持った、真のリーダーでした。
今、財界にも音楽界にも、残念ながら、心から尊敬し、見習いたいトップはいません。皆、自己保身だけに汲汲としているように見えます。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。おっしゃるとおり朝比奈先生は本当に理想のトップだったように思います。
>現在、大阪府の財政非常事態の折、橋下知事と交渉する代表が朝比奈先生だったら、どんなにやり易かったでしょう。
同感です。
そういえば、僕もDVDを持ってました。すっかり忘れて棚の奥に眠ってますが(笑)。あらためて観てみよう思います。
>朝比奈先生は、松下幸之助や本田宗一郎等と並ぶ、創業者的、叩き上げの心意気を持った、真のリーダーでした。
まさに!今の時代こそこういう「明治の男」が必要だと思います。

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