前田朋子ヴァイオリン・リサイタル@みなとみらい

薄らと雲にかかった満月が美しい。
人は月に支配されているそう。その証拠に、身体を表す漢字には大抵「月(にくづき)」が配されている・・・。

正直それほど期待していなかったのだけれど、良かった。何より最初から最後までアットホームな雰囲気と、聴衆とのコミュニケーションをしっかりとりながら進めるという構成で、みなとみらいの小ホールが音楽に満たされた瞬間にとても明るくなった。
前田朋子さんのヴァイオリンはもちろん初めて。芯のしっかりした、響きの豊かな音色が特長。それと一番はその演奏がどこをどう切っても「楷書」であるということ。僕は前田さんとはもちろん面識はないのでどんな方か存じ上げないが、少なくともこの演奏を聴いて、とても真面目で直球勝負でありながら、それでいてすべてを包み込むような母性を持たれている女性だということがはっきりわかり、その意味では彼女の人間性にもとても興味を持った。秋には鎌倉のお寺でバッハの無伴奏全曲を演られるようなので、聴いてみたい・・・。

音楽の贈りもの第8回
前田朋子ヴァイオリン・リサイタル
2013年7月22日(月)19:00開演
横浜みなとみらいホール小ホール
前田朋子(ヴァイオリン)
金子薫(ピアノ)
・ヘンデル:ヴァイオリン・ソナタ第6番ホ長調作品1-15
・タルティーニ:ヴァイオリン・ソナタト短調作品1-10「捨てられたディド」
・ベートーヴェン:ロマンス第2番ヘ長調作品50
休憩
クライスラー:
・ガエターノ・プニャーニの様式によるテンポ・ディ・メヌエット
・クープランの様式によるルイ13世のシャンソンとパヴァーヌ
・ベートーヴェンの主題によるロンディーノ
・愛の喜び
・愛の悲しみ
・美しきロスマリン作品55-4
・前奏曲とアレグロ
アンコール~
・ブラームス:ハンガリー舞曲第5番

全体を通して呼吸の深い、慌てず急がず、ゆったりとエレガントな節回し。各曲毎に前田さん自身が楽曲の紹介をされておられたが、その言葉遣いからして落ち着き払ってエレガント。ヘンデルにおいては繰り返しの装飾音をエドワルド・メルクス氏とパウル・パドゥラ=スコダ氏のアレンジしたものを使われていたようでとても洒落ていた(前田さん自身パドゥラ=スコダ氏に師事されたみたい。そういえば、彼女の「楷書」はスコダから受け継いだものなのかしら?何だか同じような匂いを感じる)。タルティーニの作品1-10は初めて聴いたけれど、第1楽章の哀感に痺れた。そして、若きベートーヴェンのピアノ伴奏による「ロマンス」。前田さんによる楽曲紹介にもあったように、おそらく当時のベートーヴェンの恋愛体験が如実に反映されたものだろうが、僕はもう少し深読みしたい。ベートーヴェンの頭の中にあったのは何も女性のことだけではないのだ(笑)。少なくとも1790年代前半にシラーの「歓喜頌歌」に出逢って以来、彼の内側では「人類がひとつになるという夢」が沸々と湧き上がっていたはず。その意味では大いなる「博愛」もこの中には隠されているのではないのか?(第9交響曲の調性はニ短調であるが、ちょうどその裏返しがヘ長調であることも暗にそのことを明示しているように思う。考え過ぎか?)今夜の前田さんの演奏を聴いてそんなことを考えた。
休憩を挟んで第2部はフリッツ・クライスラー!!
クライスラーの音楽はもう少し崩し気味に弾いていただくと俄然僕好みになるのだが(とても客観的な音楽だった)、プログラムが進むにつれ尻上がりにエネルギッシュになってゆく様に驚いた。白眉は、前田さん自身子どもの頃から大好きだったという「前奏曲とアレグロ」だろう。ここでようやく彼女は心を開いたのか?(笑)。一層の感情移入とパッショネートな演奏に痺れた。

プログラム終了後、粋な計らいがあった。
会場の9名に抽選でプレゼントがあるとのこと。コサージュやらウィーンのワインやら、あるいはご自身のCD、リサイタル・チケットなどなど。残念ながら当選は叶わなかったけれど、「音楽の贈りもの」とはこういうことだったのか!(笑)、と膝を打った次第。

それにしてもクライスラーの天才をあらためて感じた。
何より、自身で勝手に創作した作品を、いかにも過去の天才たちの新発見曲であるかのように発表して世界を驚かせたこと自体真に面白い。それぞれが実に「それ」風だから。

 


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4 COMMENTS

Kay

あたたかい論評を頂きましてありがとうございます。
秋の鎌倉芸術祭での北鎌倉の古刹での演奏会でも、バッハをぜひご堪能ください。

返信する
岡本 浩和

>Kay様
こちらこそ恐縮です。
ご本人・・・、ですよね(?)
鎌倉でのバッハは是非ともお伺いしたく思っております。
よろしくお願いします。

返信する
前田朋子

Kay様、岡本様、
素敵な文章、温かなコメントありがとうございます!
Kay様は私の後援会副会長さんでいらっしゃいます。
このような場でもサポートして下さり、感謝いたします!(いま、気づきました!)
10月にまた日本へまいります。
建長寺、円覚寺での演奏会に向けて、ウィーンではペーター教会で全曲演奏会をいたします。
これからもどうぞよろしくお願い致します♪

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岡本 浩和

前田朋子様、Kay様
Kay様は後援会副会長様でしたか!失礼しました。
10月のバッハは楽しみにしております。
こちらこそよろしくお願いいたします。
ペーター教会でのご成功を祈念して・・・。

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