カルロス・クライバーの「ばらの騎士」(1973Live)

カルロス・クライバーを久しぶりに聴いたけれど、晩年になるにつれ極端にレパートリーを絞り込み、滅多なことでステージに出なかった彼のパフォーマンスが桁違いにエネルギッシュで、ともかく別次元に在ることをあらためて確信した。作品に対する愛情、そしてその内に没頭する精神、さらに華麗な手振り身振り、どこをとっても一切の無駄のない完璧な表現。たった1度きりだったが、実演に触れる機会を与えてもらったことに大いなる感謝。

フランツ・リストの流れを汲んで交響詩を完成させたのはリヒャルト・シュトラウスその人だろう。しかしながら、シュトラウスの交響詩というのは僕の中では繰り返し聴く魅力に欠けるところがあるというのも事実。その音楽に浸っている瞬間は身も心も「恍惚感」でいっぱいになるのだけれど(世紀末的退廃感も)、どうにもすぐに飽きてしまう。
豊潤で分厚いオーケストレーションの妙味(特に、実演に触れた時の特筆すべき音響効果・・・)、そして各楽器の扱い様は無敵で、どの作品も実によくできており、聴いているその時はとても愉しいのだけれど・・・。

ちなみに、シュトラウスのもうひとつの重要なジャンルであるオペラ。こちらはどれもが真によくできており、まだまだそのすべてを僕自身が享受し得ていないもどかしさはあるもののいずれもがとても奥深い。特に、フーゴー・ホーフマンスタールとの協同作業により創作された諸作は最高峰揃いで、これこそオペラ中のオペラと言っても言い過ぎでない。例えば「影のない女」こそは、おそらく誰もが認める最高傑作であろうが、わかりやすいのは何といっても「フィガロの結婚」を規範にしたという「ばらの騎士」。

そういえば20年ほど前、カルロス・クライバーがウィーン国立歌劇場と(最後の)来日公演を行った際、僕はどうにもチケットを押さえることができず断念した。理由は様々だけれど、最高席が6万円ほどだったこと、最安席はあっという間にソールドアウトになったということも手伝って、モタモタしているうちに逃してしまった。その頃はすでにカルロスは伝説の指揮者になっていたので、これが最後になるかもという噂はあったものの実際に最後になるとは予想もしていなかったので、2003年に亡くなった時地団太。思い出と合わせて人生の一大痛恨事。

彼の2種ある映像はもちろん生涯の宝物であるけれど、先年73年のバイエルン国立歌劇場での公演がSACD化され正規でリリースされた時には狂喜した。何せ脂の乗っていた、勢いの最もあった時期のライブ・パフォーマンスだから。勢いある冒頭ホルンのテーマに始まる第1幕前奏からもう明確にカルロスの音で、とにかく生気に満ち、そして色香豊かで・・・。何度聴いても身震いするほど。

R.シュトラウス:楽劇「ばらの騎士」
クレア・ワトソン(元帥夫人)
カール・リッダーブッシュ(オックス男爵)
ブリギッテ・ファスベンダー(オクタヴィアン)
ルチア・ポップ(ゾフィー)
ベンノ・クッシェ(ファーニナル)
ゲルハルト・ウンガー(テノール歌手)
アンネリーゼ・ヴァース(マリアンネ)
デイヴィッド・ソー(ヴァルツァッキ)
マルガレーテ・ベンツェ(アンニーナ)
アルブレヒト・ペーター(警官)
ゲオルク・パスクダ(元帥夫人の執事)
フランツ・クラールヴァイン(ファーニナルの執事)
ハンス・ヴィルブリンク(弁護士)
ロレンツ・フェーエンベルガー(主人)
ラインハルト・シュミット(フルーティスト)
カール・シュレーダー(美容師)ほか
バイエルン国立歌劇場合唱団
カルロス・クライバー指揮バイエルン国立歌劇場管弦楽団(1973.7.13Live)

今年の全国的な異常な暑さも手伝ってとても全曲を聴きとおすのは無理(笑)。
第1幕のみ繰り返し(残りの幕は別の日にまたゆっくり聴こう)。
前奏はもちろんのことマルシャリン(元帥夫人)とオクタヴィアンの二重唱の妙なる響き。まだ音楽が始まって間もないというのにほとんどクライマックスかというテンション(「ばらの騎士」の出来は冒頭の十数分で決まってしまう)。そして、第1幕フィナーレのマルシャリンのモノローグにおけるワトソンの素晴らしさ。「時の移ろい」を意識するあまりの元帥夫人の悲哀が見事に歌われる。嗚呼、目の前にこの舞台を想像するだけで興奮の極み。


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2 COMMENTS

neoros2019

つい最近まで、R.シュトラウスと、しっかり向き合うことはなかったのですが、新オリジナルマスターテープによるリマスターのケンペ/ドレスデンの9枚組を皮切りに、究極的な‘77カラヤンの楽劇サロメを追加し、さらにやっと、このたびヤフオクでこのクライバーのばらの騎士SACD3枚組を落札購入することができました。
「ばらの騎士」については許光俊先生が屍と評した80年代のカラヤン盤3枚組も、アマゾン中古欄や御茶ノ水の中古屋にて千円前後でよくみかけるので、これも機会があれば求めようと思っています。
クライバーのこの最全盛期が記録されている‘73の3枚組の価値がどれほどのものであるか再確認するために。

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岡本 浩和

>neoros2019様

カルロス・クライバーの73年の「ばらの騎士」は素晴らしい演奏だと僕は思います。
破綻箇所はあるもののやっぱり音楽の勢いが桁違いです。
じっくりと聴いていただければと思います。

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