チョン・キョンファ衝撃の東京ライブ第2夜を聴いて思ふ

kyungwha_19980428生涯で忘れられないコンサートというのはいくつもあるのだけれど、その中のひとつがチョン・キョンファのもの。過日、数年ぶりの復活公演で老練の響きを披露してくれた彼女だが、例えばN響をバックにブラームス&ベートーヴェンの協奏曲を一夜で演奏した1989年のサントリーホールでの公演(この記録もNHKに残っているはずだからいずれ商品化していただきたい)は今思い出しても感動が蘇るほどだし、2001年の同じくサントリーホールでのヴィヴァルディほかも本当に素晴らしかった。しかしながら、1998年の2晩にわたるリサイタルはそれら以上だったかも。ほぼ満員の聴衆だったと記憶するが、演奏中の息をのむほどの緊張から来る静寂と、そこから溢れ出る音楽の崇高さはそれまで他では体験したことのないものだった。

今年の来日を記念してなのだろう、その2つのリサイタルの実況録音盤が数ヶ月前リリースされた。もはやあの日体験した音楽を追体験できるとは夢にも思ってなかったのでそのことだけで心が躍った。そして、ようやくじっくりと聴いた。

当初発表のプログラムからマイナー・チェンジ。しかも第2夜は冒頭に予定のなかったバッハの「G線上のアリア」が奏でられ、そこでその夜の会場の雰囲気は一気に整えられ、この禊に参加する心の準備ができたようなものだった。

チョン・キョンファ衝撃の東京ライブ第2夜
・J.S.バッハ:G線上のアリアBWV1068-2
・ストラヴィンスキー:協奏的二重奏曲
・J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調BWV1004
・バルトーク:ヴァイオリン・ソナタ第2番
・ラヴェル:ツィガーヌ
・ラフマニノフ:ヴォカリーズ
・クライスラー:美しきロスマリン
・クライスラー:中国の太鼓
・ドビュッシー:美しい夕暮れ(ハイフェッツ編)
チョン・キョンファ(ヴァイオリン)
イタマール・ゴラン(ピアノ)(1998.4.28Live)

199800426_28_chung前半のバッハは言葉にならない。思い出すだけで涙が出るほど。録音で触れてみても、終演後の聴衆の反応が明確に記録されており、あの日あの場所にいた人々がどれほど感動したかが見事に伝わってくる。月並みな言い方だけれど、バッハの魂が降り、神とひとつになり、一挺のヴァイオリンがかくも厳しく豊かな音楽を響かせることに驚愕した。冒頭アルマンドから隔絶された独自の世界を現出した。そして何と言っても終曲シャコンヌの拡がりと言ったら!!
後半はラヴェルが印象的。あの何者かに憑かれたように音楽を奏でるキョンファの、何とも躍動的な仕草は今でも忘れない。もちろんバルトークだってすごかった。この暗澹たる音楽が何と瑞々しく可憐なものに変貌していたことか。

ラフマニノフ以下はアンコール曲。小品だけれど決して手を抜かず。キョンファの「ヴォカリーズ」やクライスラーを侮るなかれ。何と素敵な音楽たち。
この夜のプログラムを音盤で聴いてあらためて気づいた。そうか、この異様な感激は伴奏者イタマール・ゴランの力量にも大いに依っているのだと。不滅の記録なり。

しかし、言葉で表現しようとすればするほど陳腐になる。あの夜のステージの10%も伝えきれていない。書かなきゃ良かったかな・・・(笑)。

 


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3 COMMENTS

Judy

チョン・キョンファ好きです。とは言えYoutubeでChaconneを聴いた結果キョンファの演奏に驚き、どうしてこのViolinistはあまり知られてないのかしら?今頃どうしているいるのかな〜?なんて思っていた矢先でした。知られていないと思ったのはおめでたくも私が知らなかっただけなんですね。すごい演奏家ですね。コンブリオさんが書いてくださったお陰で是非ともCDを入手したくなりましたし、言葉が感動に追いつかないとうお気持ちはわかりますが10%というのはご謙遜です。

「息をのむほどの緊張から来る静寂と、そこから溢れ出る音楽の崇高さはそれまで他では体験したことのないものだった。」、、、これに感動の90%位は凝縮されています。

ところで、Helene Grimaud Piano Recital: Bach, Beethoven、Brahms,RachmaninovのDVDがリリースされましたね。12年前の若い若いGrimaudいいです、凄いです、いきなりChaconneからスタートです!照れたようなお辞儀の仕方も可愛いです。、、、私は1%しか表現できませぬ。

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岡本 浩和

>Judy様
チョン・キョンファはすごいですよ。
ご存じなかったのですか?
若い頃は一層素晴らしかったといわれますが、僕が初めて実演を聴いたのは1989年でして、それはそれはもう最高でした。
しかし、表現力が10%というのは謙遜でも何でもなく、本当に稚拙だと感じてしまいます。音楽はやっぱり聴いて何ぼですね。
グリモーのDVDは知りませんでした。これは買わなきゃですね。
ありがとうございます。

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