ロストロポーヴィチ&ブリテンによるシューベルトほかを聴いて思ふ

rostropovich_complete_decca_recordingsロストロポーヴィチがデッカとフィリップスに残した録音はどれもが秀逸。リヒテルとのベートーヴェンは殊に有名なものだが、ブリテンの伴奏による諸作や、ブリテン指揮イギリス室内管をバックにしての協奏曲など、そのどれもが聴く者の心を鷲掴みにするものばかり。チェロ作品であるゆえ当然ロストロポーヴィチの独壇場になるかと思いきや、実にブリテンのピアノ演奏が際立つ。

例えば、シューベルトのアルペジョーネ・ソナタ。第1楽章冒頭のピアノのいかにも涙の滴る哀しげな表情は、この作品の根底に流れる不安と慟哭を先取りするもの。そして、僕の心を何より捉えて離さないのは、展開部後半、再現部直前の第2主題が織り込まれた弱奏から強奏に至るピアノ伴奏の妙味。何という恐怖!!さらにコーダでチェロと伴走するピアノの音色の意味深さ!この楽章を耳にするだけでピアニストとしてのブリテンの類稀な才能が手に取るように見える。
第2楽章アダージョで、シューベルトは安らかに眠る。チェロの、囁きかける何という息の長い、美しい旋律。アタッカで続く第3楽章アレグレットの音楽は、どこか懐古的だ。いや、しかし、この時シューベルトはまだ27歳。昔を懐かしむことなどないはずなのに・・・。ここでもブリテンのピアノが見事なリズムを刻み、ロストロポーヴィチのチェロが歌うのだ。

前にも1824年のシューベルトについては書いた。不治の病に罹患したことを知った彼は絶望した。表面上取り繕って何とか愉悦的な音楽をひねり出そうとするが、どうしても無理。ここには「哀しみ」しか残らない。

ロストロポーヴィチ・デッカ録音全集より
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(チェロ)
・シューベルト:アルペジョーネ・ソナタイ短調D821(1968.7録音)
・シューマン:民謡風の5つの小品作品102(1961.7録音)
ベンジャミン・ブリテン(ピアノ)
・ハイドン:チェロ協奏曲ハ長調Hob.VIIb:1(1964.7録音)
・ブリテン:チェロと管弦楽のための交響曲作品68(1964.7録音)
ベンジャミン・ブリテン指揮イギリス室内管弦楽団
・ブリッジ:チェロ・ソナタ(1968.7録音)
・ドビュッシー:チェロ・ソナタニ短調(1961.7録音)
ベンジャミン・ブリテン(ピアノ)

ブリテンの師であるフランク・ブリッジによって1913年から17年に書かれたソナタも実に美しいメロディの宝庫。同時期のバルトークやドビュッシーの作風に比較すると極めて浪漫的であるが、第2楽章後半の弱音によるピアノとチェロのやり取りなど前衛的で冷たい様相も湛えており、真に興味深い。チェロの分厚い響きと、チェロの軽快な音色の対比に思わず真剣に耳を傾け、ラストのチェロのうねりに卒倒する・・・。

ブリテンのチェロ交響曲はロストロポーヴィチに献呈されたものだが、その内容は極めて深い。前衛とは程遠く、何より旋律的でありながら様々なチャレンジが企てられる。第3楽章アダージョの深刻なチェロの嘆きとティンパニによる悲痛な打撃音に釘づけ・・・。
ちなみに、この録音は初演(1964年3月12日)から4ヶ月後のもの。初演が僕の誕生日の10日前であることが何とも感慨深い(笑)。

 


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2 COMMENTS

木曽のあばら屋

こんにちは。
ロストロポーヴィチとブリテンの共演では、
アルペジョーネとブリッジのソナタが特に好きです。
この2曲、どことなく似ていますね。

チェロ交響曲は、すごい作品だとは思うものの、いまだ咀嚼しきれずにいます。

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岡本 浩和

>木曽のあばら屋様
そういえば木曽のあばら屋様はチェロをやってらっしゃるんでしたよね!
ロストロ&ブリテンのアルペジョーネは特に素晴らしいと僕も思います。(もちろんブリッジも)

チェロ交響曲含めブリテンの作品はものにするのに時間がかかりますが、どれも粒揃いで素晴らしいと思います。

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