「マイルス・デイヴィス自叙伝」に見る第2期黄金クインテットの数々のエピソード。マイルスが、一般社会でいうところの組織活性の方法や才能開花の術を自ずと持ち合わせていたことがわかる。そして、それぞれの時代においてメンバーの能力を見出した先見の明が光る。特にこの時代、マイルス・デイヴィス本人でさえ絶賛する不世出のメンバーが揃った最高のバンドだったことが具に語られる。
いいか、ミュージシャンの質がバンドをすばらしいものにするということを憶えておいてほしい。一所懸命働き、演奏し、すべてを一緒にやろうという意欲がある上質の有能なミュージシャンが揃ったら、偉大なバンドができるんだ。トレーンがオレのバンドにいた終わりの年(1960年)は、奴は自分のためだけにやっていた。そうなると、バンドからは魔力が失せ、一緒にやるのを喜んでいた他のメンバーも、どうでもいいやって気持ちになってしまうんだ。
P97
ある程度実績を積むと人は誰でも自信を得、それが謙虚さを失うことにもつながる。コルトレーンでさえそうだったということだ。「去る者は追わず」、マイルスが常にフレッシュな人選を心がけようとしたのには理由があるということ。
オレには、必要なものがすべて揃っていた。オレがこのバンドのインスピレーションであり、知恵であり、つなぎ役だとしたら、トニーは創造的なひらめき、火花で、ウェインはアイディアの源泉で、いろんなアイディアに形を与え、ロンとハービーは全体をまとめていた。
P97
すばらしいバンドの条件は、まず、何を演奏することになっても、やるべきことができるという、他のメンバーに対する信頼だ。何を演奏しようが、その場で何が起きようが、オレは、トニーとハービーとロンには絶対の信頼を置いていた。
P103
しかも、バンドのメンバー各々の生まれ持った異なる才をうまく使う。
ずっと立派なミュージシャンであり続けたいなら、新しいこと、その時に起こりつつあることに対して、オープンじゃないといけない。成長し続け、自分の音楽でコミュニケートしようと思うなら、いろんな新しいことを吸収できないとダメだ。それに、すべての芸術的表現における創造性や才能には、年齢なんてないんだ。
P98
そして、そういう礎の上でマイルスは新しいことに常に挑戦し続ける。
中でも、トニー・ウィリアムスに対しての信頼の厚さは他を圧倒する賞賛の言で表される。
そんな頃にトニー・ウィリアムスと出会った。ジャッキー・マクリーンと一緒にやっていたこの17歳の小さなドラマーを聴いて、そのすばらしさに一発まいってしまった。ものすごい奴だと思った。
P78
ドラマーの話になったら、トニー・ウィリアムスしかいないと、これだけは間違いなく言える。彼のような奴は、後にも先にも、一人もいない。本当に、ただただすごかった。
P100
そんなトニーは1997年、51歳という若さで逝った・・・。
Miles Davis Quintet:Miles Smiles
Personnel
Miles Davis (trumpet)
Wayne Shorter (tenor saxophone)
Herbie Hancock (piano)
Ron Carter (double bass)
Tony Williams (drums)
マイルスが言うように、このアルバムでのトニー・ウィリアムスの壮絶なドラミングには目を見張る。”Footprints”において、ロンのベースとハービーのピアノにぴったり付けながらリズムを刻むトニーの変幻自在のドラムが聴きもの。マイルスのトランペットも興奮しているよう。
しかしながら、そういうマイルスも実に冷静だ。
すごい演奏をしていた一方で、オレのレパートリー、毎晩演奏する曲がバンドのやる気を萎えさせはじめていた。人々はオレの古いレコードで聴いた「マイルストーンズ」「ラウンド・ミッドナイト」「マイ・ファニー・バレンタイン」「ソー・ホワット」なんかを聴きたくてやって来る。それが、いつも満員になる理由だった。だがバンドのメンバーは、その時レコーディングしている、あるいはしたばかりの新しいヤツをやりたがった。それが彼らの不満の種だってこともわかっていた。「キリマンジャロの娘」「ジンジャーブレッド・ボーイ」「フットプリンツ」「サークル・イン・ザ・ラウンド」みたいな、みんなで一緒に作ってレコーディングしたばかりの曲をやりたがった。
P106-107
天才マイルスの言葉はどれも深い。そして、こういう言葉を噛みしめながら、その時代に演奏された曲を聴くと一層そのすごさが身に染みる。こんな天才はもう二度と現れないのでは・・・?
ジャケットは珍しく笑顔のマイルスが描かれるが、アルバムの内容は極めて先鋭的でクール。
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