人の運命というのは本当にわからないもの。
時間が命であり、命が時間であることは、よく考えれば当たり前のことなのだが、意外に多くの人が意識していないよう。
しかしながら、本人も周囲も予想だにしなかったことがいつ何時起こるとも知れぬ世の中。少なくとも予測可能なことならば相応に心の準備もできるけれど、突発的なハプニングの場合、簡単に命を失うという最悪の事態にもなりかねず、その場合には本人はもちろんのこと、残された者たちも無念の思いが募る。
「今この瞬間」を大切にしたいもの。
ジャズ界をわずか4年で疾風の如く駆け抜けていった天才トランぺッター、クリフォード・ブラウン。彼は、1956年6月26日、25歳という若さで交通事故のため突如として逝った。
繰り返し何度聴いても、類い稀なその即興センスと、泉の如く湧き出る音楽的才能、そして何より楽器を操る超絶的技巧に舌を巻く。こういう人を早くに失くしたことはまさに痛恨事。
息の合うアンサンブルの熱狂と、ストリングスをバックに思う存分歌う安寧と。
人間感情の両極を、いわば360度広角から表現し得た魔法のラッパ。古びた録音の内側から真に生き生きとした演奏者の心が垣間見える。まるで楽器を通して僕たちに話しかけてくるよう。
Clifford Brown and Max Roach:Study In Brown(1955.2.23-25録音)
Personnel
Clifford Brown (trumpet)
Harold Land (tenor saxophone)
Richie Powell (piano)
George Morrow (double bass)
Max Roach (drums)
1曲目”Cherokee”から喜びに満ち、音楽の勢いは圧倒的。長くても5分ちょっとというコンパクトな楽曲群に聴こえる何より当時のアメリカ合衆国を象徴するかの如くの「幸福感」が見事。リッチー・パウエルのピアノとジョージ・モローのベース、そしてマックス・ローチのドラムが激しいリズムを刻む中、クリフォードのトランペットがうねり、ハロルド・ランドのテナーが唸る。
Clifford Brown with Strings(1955.1.18-20録音)
Personnel
Clifford Brown (trumpet)
Richie Powell (piano)
Max Roach (drums)
George Morrow (double bass)
Barry Galbraith (guitar)
Neal Hefti (arranger, conductor)
ここでのクリフォードは神がかり的。ストリングスと完璧に同期し、1ヶ月後の”Study In Brown”の色彩とは正反対のメロウなバラードを美しく奏でる。
例えば、アン・ロネル作” Willow Weep for Me”の、クリフォードの歌心!あるいは、名曲”Smoke Gets In Your Eyes”における心に沁みる温かいトランペット・ソロ。さらには、”Stardust”冒頭での輝かしく切ないトランペットの響き。どこをどう切り取っても完全無欠。
時間を忘れ、クリフォード・ブラウンに浸る幸せ。何という恍惚。
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