ブルーノ・ヴァイルの「天地創造」を聴いて思ふ

haydn_creation_weil田舎の静寂の中に在ると、日常意識しない様々な自然の音が聞こえる。鳶のひゅるひゅるという鳴き声とさわさわと微かに騒ぐ風の音。心地良い晴天の中、眩しい太陽を背にしてしばし空想。

「天地創造」の物語は、最初に天と地が作られるところから始まる。そこに自然が現れ、そして水や空の生物が作られる。我々人間はそもそも第3部になってようやく登場するのだ。ヨーゼフ・ハイドン畢生の傑作を聴きながら、大地や宇宙万物に畏敬の念を抱き、生きとし生けるものに感謝の想いを絶やさぬようにと2014年年初に決意する。

信仰を離れ、人はいつの間にか自分たちが地球上でもっとも偉大な存在であるかのように振る舞うようになった。大自然を前に「謙虚」という二文字を忘れずに・・・。

混沌とした序曲に始まり、天使ラファエルによるレチタティーヴォの静かな美しさに心を奪われる。光明が差し、音楽は壮大な調和を生み出すが、この「原点」には、人間が失った「正直さ」や「智慧」が反映されているかのようだ。

世界の出現を歌う天使ウリエルの歌は軽妙に始まるものの、未来を予言するかの如く途中暗澹たる雰囲気を湛え、音楽はうなりを上げる。しかしそこにまたハイドンの天才が垣間見られ、その些細な楽想をブルーノ・ヴァイルは実に見事に表現するのだ。

そして、第7曲天使ガブリエルのアリア「いまや野の新緑が」の何という軽快で明朗な響きよ。モノイオスの可憐なソプラノが真に愛らしい。そして、合唱による神への賛美、喜びの歌が聴く者を恍惚とさせる。それほどに直截的で見事な演奏をヴァイル&ターフェルムジーク・バロック管弦楽団は成し遂げているのだ。

ハイドン:オラトリオ「天地創造」Hob.XXI-2
アン・モノイオス(天使ガブリエル、ソプラノ)
イェルク・ヘリング(天使ウリエル、テノール)
ハリー・ファン・デル・カンプ(天使ラファエル、バス)
テルツ少年合唱団
ブルーノ・ヴァイル指揮ターフェルムジーク・バロック管弦楽団(1993録音)

見通し良く透明な響き。
第2部の3人の天使によるトリオの素晴らしさ。ガブリエル、ウリエル、ラファエルの順に世界とそこに存在する鳥や魚の姿を喜び、最後は三重唱で神を讃える。

神よ、あなたの業のなんと多いことか!
誰がその数を知れましょう。

ここには音楽の偉大な力がある。1799年3月19日、ウィーンのケルトナートーア劇場で行われた公開初演を青年ベートーヴェンも聴いたことだろう。さて、この壮大稀有な作品を耳にして楽聖は一体何を思ったのか?

バッハの「マタイ受難曲」、ヘンデルの「メサイア」に優るとも劣らぬこの名作を僕は随分長い間無視していたように思う。ブルーノ・ヴァイルによってその扉は開かれたが、これこそハイドンが全精力を尽くし、それまでに培ったあらゆるイディオムを取り込んで創出した最高傑作。

 


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