キルステン・フラグスタートのマーラー&ワーグナーを聴いて思ふ

flagstad_decca_ricitalsカスリーン・フェリアーや晩年のキルステン・フラグスタートの、あの何とも言えない低く幽玄な声に僕はシンパシーを覚える。はじめてフェリアーを聴いたのはワルターの指揮による「大地の歌」で、フラグスタートの最初はフルトヴェングラー指揮での「ブリュンヒルデの自己犠牲」。ほぼ同時期、1980年頃だったと思う。
2人とも僕が生れる前に亡くなっている歌手だから当然実演は聴いたことがない。あくまでアナログ盤で聴いた限りでの思い。それこそあの頃は本当に繰り返し聴いた。特にフラグスタート。一連のワーグナー録音はもちろんのことグルックの「アルチェステ」にも舌を巻いた・・・。

今の時代は便利だ。古の大演奏家たちの録音がひとまとめにされ、しかも信じられないような激安価格で消費者に提供されるから。その分昔のような有難味は減ってしまったけれど、単売だったらまず手に取ることはないだろう録音にもお目にかかることができることが何より嬉しい。

フラグスタートのデッカ録音を集めたボックスを少しずつ聴いている。最初の1枚から思わず涙がこぼれそう。有名な「ヴェーゼンドンク歌曲集」のほか、ボールト卿とのマーラー「さすらう若人の歌」が収められているところが粋。ここでのフラグスタートの歌声がまた素敵なんだ・・・。

キルステン・フラグスタート・エディション:ザ・デッカ・リサイタル
ワーグナー:ヴェーゼンドンク歌曲集
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1956.5.13-15録音)
マーラー:
・亡き子をしのぶ歌
・さすらう若人の歌
サー・エイドリアン・ボールト指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1957.5.17,18,20&21録音)
キルステン・フラグスタート(ソプラノ)

泣きに泣く、愛しい人を想って、
恋しく愛しい人を想って!

フラグスタートが歌うと「さすらう若人」が一層哀しく、そして意味深くなる。

花びらが私の上に雪のように降り注いだ。
人生がどうなるかなんて知りもしないが、
全て―ああ、全てが、また、素晴らしくなった。
全て、全てが、恋も、苦しみも、
現も、夢も!

何という退廃的な響き・・・。

そして、「亡き子」の、何と静けさに満ちた子守歌のような響きであることか!
引き続き2枚目。

ワーグナー:
・楽劇「ワルキューレ」~「館の男たちがすべてこの部屋に集まっていました」
・楽劇「ワルキューレ」~「寒い冬の日々に私が憧れていた春こそあなたです」
・歌劇「ローエングリン」~ひとり曇りし日に
・舞台神聖祭典劇「パルジファル」~私はあの子が母の胸にすがるのを見た
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1956.5.13-15録音)
・楽劇「ワルキューレ」~ジークムント、私の方を見なさい!
セット・スヴァンホルム(テノール)
サー・ゲオルク・ショルティ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1957.5.27&28録音)
・楽劇「神々の黄昏」~ラインの岸にたきぎの山を積みあげよ
エイヴィン・フィエルスタート指揮ノルウェー国立放送管弦楽団(1956.1.10録音)

期せずして異なる指揮者でのワーグナー聴き比べ。ジークリンデを歌っても、エルザを歌っても、あるいはクンドリだろうとブリュンヒルデだろうとフラグスタートはフラグスタート。真の愛ある救済者としての力を秘めたフラグスタートが光る。

ところで、彼女は第2次世界大戦中、夫の待つノルウェーに帰国したことからナチス協力者とされ、特にアメリカで数々の迫害を受けたというが、あの当時の音楽家たちのスタンスというのはどうにもよくわからず、真相がどうなのかはまったく不明。フルトヴェングラー然り、政治に無頓着だったということに過ぎないのだと僕は思うけれど。

「ヒトラーとバイロイト音楽祭―ヴィニフレート・ワーグナーの生涯」を読んでいてもそのことはよく理解できる。ワーグナー家の人々は要するにナチスに利用されたわけで、もちろん党員として熱狂的支持をしていたことは間違いのない事実なのだけれど、具体的に犯罪に手を染めたわけではなく、実に判断が難しいところ。時代と世の情勢と、あるいは周囲の環境と・・・、あらゆるものが「魔が差した」かのように働いたということ。

 


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