グラウンディング

日本の近海に台風が近づいているということで、九州などでは局地的な大雨が降っているらしい。東京は「小春日和」ともいうべき爽やかな青空が広がり心地よい。午後、一仕事終えた後にデスクでぼんやりと本を読みながら思い出した。

ちょうど10年前の夏、ザルツブルクやプラハ、リンツ、ブダペストなど中欧諸国を何人かで10日ほどかけて周った。列車での移動あり、レンタカーでの移動あり、もちろん飛行機で移動ありのとても楽しい「旅」であった。いつもヨーロッパを訪問すると、必ず僕がやるのは「作曲家詣」。生家やお墓など大好きな音楽家の縁の地に足を運び、その場でその人の創作した楽曲を聴き、独り悦に浸るのである。

その節、ちょうどハンガリーのブダペストの街を歩いていて、偶然ゾルターン・コダーイの生家を発見したので、ふらりと入った。ほんとに素朴な家でおそらく今は「記念館」になっているのだと思うが、管理人らしきおばあさんが、ドアを開けるなり話しかけてきてくれた。そこに飾ってある時計(現物だったか絵だったかは覚えてない)を指して何やらぼそぼそと言う。こちらも拙い英語だが、あちらもほとんど頼りないドイツ語だがマジャール語混じりの英語。何を言っているのかいま一つよくわからないので想像しながらよく聞いてみると、これが「ハーリ・ヤーノシュ」(コダーイの作曲したジングシュピール)に出てくる「音楽時計」なんだっていうことを一生懸命に説明してくれているのだと理解した。

そんなことを思いながら、いくつかコダーイの音楽を聴く。
コダーイはベーラ・バルトークと並ぶ20世紀のハンガリー音楽界を支えた巨匠。「無調」の世界に飛び込んだバルトークとは違い、生涯「調性音楽」にこだわり続けた。その彼の傑作が、33歳のときに創った「無伴奏チェロ・ソナタ作品8」。だいぶ前だと記憶するが、ヨーヨー・マがサントリー・ウィスキーのコマーシャルに出演した際に演奏していたのが確かこの曲だったと思う。

コダーイ:無伴奏チェロ・ソナタ作品8
ミクローシュ・ペレーニ(チェロ)

作曲者から直接教えを受けたペレーニの演奏。
バッハの無伴奏が宇宙とつながる「愛の音楽」とするならコダーイの無伴奏は地球とつながる「グラウンディング」のための音楽。双方ともチェロという楽器一艇により究極的に音楽を突き詰めた「メディテーション」の音楽。音楽を楽しむときは大音量で、瞑想のBGMにするなら聴こえるか聴こえないか位の微かな音で。

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