peter gabriel “and i’ll scratch yours”を聴いて思ふ

peter_gabriel_ill_scratch_yoursほとんど月並みな言葉しか出てこないのだけれど。
ピーター・ガブリエルの “and i’ll scratch yours”を聴いて、やっぱりすべてはつながっていて、ひとつなんだと感じる。ピーターが触発されたアーティストはこれまで多数。若手や大御所や・・・、彼らの作品をピーターは”scratch my back”でカヴァー。そして、今度はお返しにと彼らがピーターの作品をカヴァーする。
そのいずれのアルバムにも大変な「愛」が溢れる。

“and i’ll scratch yours”に登場するアーティストはいずれも天才的なアレンジでピーター・ガブリエル作品を再創造。中で僕が最高峰と推すのはルー・リードによる”Solsbury Hill”。いかにもルーによるルーのための編曲で、カヴァーしたのはほとんど歌詞のみかというくらい音楽は別のモノにすり替わっている。ただしそこに満ちるハードでメタリックなパワーが圧倒的なのである。最もピーター自身はこのアレンジに「ノーコメント」を貫いているようだが。

さらに、ブライアン・イーノによる”Mother of Violence”の前衛的な響きに、これこそがセカンド・アルバム発表時にピーターが必要としていたアレンジなのではないのかと思わせるほど完璧な出来だと膝を打つ。

アルバム最後の、ポール・サイモンによる”Biko”は一種アンコールの態。そして、この手のアフリカン・スピリットな作品はポールの自家薬籠中のもので、しかもこのアコースティック・アレンジがいかにも静かな涙を誘うもので、ピーターのオリジナルに比較しまったく遜色ない。

peter gabriel:and i’ll scratch yours
“I Don’t Remember” David Byrne
“Come Talk To Me” Bon Iver
“Blood Of Eden” regina spektor
“Not One Of Us” Stephon Merritt
“Shock The Monkey” Joseph Arthur
“Big Time” Randy Newman
“Games Without Frontiers” Arcade Fire
“Mercy Street” Elbow
“Mother Of Violence” Brian Eno
“Don’t Give Up” Feist feat. Timber Timbre
“Solsbury Hill” Lou Reed
“Biko” Paul Simon

今でも覚えているけど、親に腹が立ったときはよくドアをばたんと閉めたり、ピアノに向かっては、耳をおおいたくなるような特別やかましい曲を弾いたもんだよ。親が、特におふくろが、嫌がるとわかっているようなものをね。まったく情けない話だけど・・・
怒りを表に出すのは、ぼくにしてみれば努力して、だんだん慣れてきたようなことで、いまだに努力の真っ最中だよ。どうしてむずかしいかっていうと、それは一種動物的な、衝動的なものだからで、ぼくは昔からむかっとくるものを押さえつけるようにしつけられてきたからなんだ。ほんとバカバカしいのは、腹が立っているときは誰だってそうとわかるもんだからね。ただ、正直に出せないんだよ。しかも、人様に怒れないなら、自分にも怒れないし、そういう内にこもったくやしさはたまる一方で、健康に悪いことはなはだしい。
スペンサー・ブライト著・岡山徹訳「ピーター・ガブリエル(正伝)」P209

天才の創造力・想像力の源泉はやはり幼少期の満たされない負の体験にあることがわかる興味深い言葉だ。抑圧こそが創造の原点なり。そして、ピーターのそういう内面を見透かすかの如く作品を再生させたのがルー・リードによる”Solsbury Hill”だといえまいか・・・。

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