ジェネシス「静寂の嵐」

genesis_wind_and_wuthering.jpgゴールデンウィークが終わり、世間の喧騒が戻ってきた。
自宅からオフィスに徒歩で通勤する途中の「気」が明らかに違う。人が動き出すと「空気」が変わるっていうのは本当なんだ・・・。
昨日のポゴレリッチのコンサートについて、サイトで検索するといろんな人がいろんな意見を書かれているのが発見できる。賛否両論で、やっぱりついていけない人も多かったよう。確かに、3年ほど前のリサイタルはもう少し一般的に受け容れられ易い解釈だったように思うし、それくらいに今回の演奏会はぶっ飛んでいたということだが、僕に言わせれば、これがポゴレリッチの進化、深化であり、ひょっとすると神化かもしれないとさえ思え、真の芸術というものはこういうものであり、解釈の幅の広さが尋常じゃない(人智では計り知れないものという意味合いも含め)ということをわかって享受するべきものなんじゃないかとも思うのである。多分に横柄な言い方になるけど・・・。

昨日の静かな興奮がやっぱり蘇る。というより、深く考えさせられる。あれは、1と2の間に無数の数が存在するように割り切れない、答にならない、答を見出すことなんて不可能な体験だったのだ。それこそありのままを受け容れるしか我々凡人にはできない。あんなパフォーマンスは他の誰にも真似できまい。そんな勇気など誰も持たないだろうが・・・。

ゆったりとした暖かい気候。にもかかわらずやけに風が強い。

30年近く前によく聴いていたアルバム。Steve Hackettがソロになった直後に発表した傑作“Please Don’t Touch”(Uriah Heepの”Look At Yourself”と同時に購入した)を取り出す。久しぶりに聴いたが、第1曲の”Narnia”のSteve Walshのヴォーカルもさることながら、何といっても特筆すべきはRichie Havensによるラスト・ナンバー”Icarus Ascending”!!Peter Gabrielの声質に似たその声色は魅力的だ。

イギリス的な、いかにもスノッブな雰囲気を漂わせるこのアルバムの価値は、それほどメジャーになっているわけではないにもかかわらず、現代にも通用するところにある(と僕は思う)。後期ジェネシスは、Peter Gabrielに引き続き、貴重な人材をここで失うことになるのだが、そのHackett在籍時の最後のアルバムは実はジェネシスというバンドの最頂点に近いところに位置する(トニー・バンクス色が強いのが特徴)のではないかと僕は前々から感じていた。

Genesis:Wind and Wuthering

Personnel
Phil Collins(Voices, Drums, Cymbals, Percussion)
Steve Hackett(Electric Guitars, Nylon Classical, 12 Strings, Kalimba, Auto-harp)
Mike Rutherford(Basses, 4,6 and 8 Strings, Electric and 12 strings Acoustic guitars, Bass pedals)
Tony Banks(Steinway Grand Piano, ARP2600 and Pro-Soloist Synthesizers, Hammond Organ, Mellotoron, Roland String Synthesizer, Fender Rhades Piano,etc.)

邦題を「静寂の嵐」という。静かな嵐とはいかにも矛盾したタイトルだが、まさに昨日のポゴレリッチのリサイタルを表すかのような言い回しである。それにしても一見落ち着いた、本当に静かな内容だ。その静けさの中に人間離れした「熱、混沌」が感じ取れるのだから、ジェネシスにとってやっぱりバンクスとハケットの存在は重要なのだ。

明日からまた日常が戻る。ゴールデンウィーク明け、一般的には学生の出席数が減るといわれるが果たしてどうだろう?


5 COMMENTS

雅之

おはようございます。
>昨日のポゴレリッチのコンサートについて
私は行っていないので、一般論でしか語れませんが・・・。
以前にもコメントしましたが、クラシックがジャズやロックに比べ最も物足りない点は、多くの場合、作曲家と演奏家が分業になってしまったことだと思っています。だから楽譜というマニュアルへの忠誠が最重要視され、結果大多数の「マニュアル人間型演奏家」を生んでしまいます。
スタンダード作品の「換骨奪胎」(古人の詩文の発想・形式などを踏襲しながら、独自の作品を作り上げること)
http://dic.yahoo.co.jp/dsearch?enc=UTF-8&p=%E3%81%8B%E3%82%93%E3%81%93%E3%81%A4%E3%81%A0%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%81%84&dtype=0&stype=1&dname=0ss
は、ジャズやロック、ポップスなど音楽界に留まらず、小説の映画化などでも、ずいぶん大胆な改変が再創造行為としては当り前なのですが、考えてみればそれに比べクラシックの演奏って、小心ですよね(笑)。
クラシックの演奏家では、リストやラフマニノフなどの超絶技巧曲はバリバリ完璧に弾いても、簡単なポップスの楽譜の演奏での、料理の仕方、即興、センスが最悪に下手、という現象をよく見受けます。自由な装飾とか、和音にあえてもう一音不協和音を付け加えてみるとか、強弱、テンポを自由に変えるとか、対旋律で雰囲気のよく似た別な曲を合体させる冒険をしてみるとか、ジャズやロックではごく普通の光景が殊更特別視されるのを見ると、クラシック界は、演奏家もファンも度量がない視野の狭い人たちの集まりであると、つくづくいやになります。楽譜に則した解釈の名演なら、20世紀にもうやり尽くされたんじゃないですかねぇ。計算し尽くされた結果であれアドリブであれ、大胆な解釈の演奏であればあるほど正統で、楽譜に忠実な演奏は異端、そんな逆転の価値観が、クラシックファンには求められるんじゃないでしょうか?
ご紹介の盤についても、不勉強で語れませんのでこれを機に猛勉強しますが(笑)、Steve Hackettのギターのほうにも興味があり、彼のソロが入ったCDをいろいろ集めて聴いてみようかと思います。タッピング奏法、ギターシンセの歴史についても学習したいです。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
本当におっしゃるとおりですよね。
>計算し尽くされた結果であれアドリブであれ、大胆な解釈の演奏であればあるほど正統で、楽譜に忠実な演奏は異端、そんな逆転の価値観が、クラシックファンには求められるんじゃないでしょうか?
まさにそうだと思います。それにしてもポゴレリッチのリサイタルについては賛否両論と書きましたが、どちらかというと「否」が多いのに驚かされました。クラシックの演奏家もそうですが、リスナーも相当頭が固いように思います。
>彼のソロが入ったCDをいろいろ集めて聴いてみようかと思います。
これは僕も一緒に猛勉強しないと、すぐに手の届かないところに行かれそうですね(笑)。

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愛知とし子

雅之さんに一票!(笑)
どのようなスタイルが正しい解釈かを追及し深めることも、もちろん大切ですが、その後に来る表現はもっと自由で良いはずだし、それについて自分が気に入らなくても非難することではないと思いますが。
ポゴのコンサートで検索すると、すごいよと言われて検索してみましたが、本当にすごいですねぇ。ビックリしました!
みなさんは、知ってる曲は、いつも聴いている馴染みのある弾き方でないと安心して聴けないんですね。それもテクニックもきっちりとミスタッチもなくと言う日本人にありがちな・・・
いきなり、自分が想像できない事をされてしまうと、戸惑ってしまい困惑してしまい、拒絶反応を起こしてしまうんでしょうね。
あまりも異質で理解出来ないと、あれは「おかしい!」としか言えないのも、本当になんだかとっても残念ですね。
バッハの装飾音符やレチタティーボのピアノ(オケ)のところも、みんな自由にアレンジして弾かないといけないですし、ショパンだって同じ曲を同じように弾かなかったようですし、人によりますが、作曲家によってはかなり自由に弾いたはず。
好き嫌いはあるのは当然ですが、あの極端な演奏が創り出したの良さや素晴らしさを理解出来ないなんて、可哀相だなぁなんて気もしますが・・・(苦笑)

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雅之

おはようございます。
ポゴレリッチのコンサート、お聴きになられたこと、羨ましいです。
いつの時代も、極めて斬新な、世紀の大傑作が世に出る時は、受け手の多数派から拒絶反応を喰らうのが世の常・・・、彼はそういうレベルの演奏家なんでしょうね。
ただ、お聴きになったコンサートのご感想を伺う限り、仮に将来録音が出回って、それを当日行けなかった私が聴いたとしても、岡本さんご夫妻と同質の衝撃を100パーセント享受することは不可能かもしれません。録音では伝わらない、マイクに入りきらない要素も、たくさんありそうですよね。そういったことに、例えばグレン・グールドなどは敏感だったのでしょうね。自分の芸風を末代まで残そうと思ったら、録音・録画しかないわけですから・・・。
逆に、現在のポゴレリッチは、新録音も少なく、コンサート主体になっているので、グールドのやり方は邪道だと思っているのかもしれませんね。指揮者のチェリビダッケがそうだったように・・・。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
>いつの時代も、極めて斬新な、世紀の大傑作が世に出る時は、受け手の多数派から拒絶反応を喰らうのが世の常・・・、彼はそういうレベルの演奏家なんでしょうね。
まさにそんな感じですね。
>録音では伝わらない、マイクに入りきらない要素も、たくさんありそうですよね。
その通りだと思います。ポゴの新譜はもう10年以上出ていないですが、やっぱり会場でああいう雰囲気でないと聴いていられないかもしれませんね。本人が一番よくわかっているのでしょう。
コブラのようにCD1枚では収まりきらないですから・・・。

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