ボロディン四重奏団のショスタコーヴィチ(旧録音)を聴いて思ふ

shostakovich_string_q_borodin_original最新リマスターが施されたレッド・ツェッペリンの初期3作がようやくリリースされた。90年代に1度リマスターされているが、20年の時を経てさらなるリマスターに及んだ理由をジミー・ペイジは次のように語る。

あれは質が悪くてね。その後、技術も進化した。膨大な時間をかけ、ツェッペリンの音楽に立体感と臨場感を持たせる様々な工夫を施した。
ツェッペリンの音楽とレコーディングの素晴らしさに、あるべき形で触れてもらいたかった。
~2014年6月30日付朝日新聞夕刊

日進月歩のテクノロジー。とりあえずファースト(ボーナス・ディスクは1969年のパリ、オリンピアでの実況録音)を聴いてみたが、音圧や鮮明度、分離感などファンを喜ばせるに十分な「あるべき形」が見事に刻まれている。
ちなみに、気になるライヴ・コンサートについては、彼としては不本意にもロバート・プラントの反対によりやらないことになったのだと。残念至極・・・。

1960年代後半から70年代前半(すなわち昭和40年代)にかけて世界の音楽界は熱かった。前述のツェッペリンの衝撃的デビュー、あるいは、ウッドストックでのハイ・パフォーマンスと並行してリリースされたサンタナのファーストなど・・・。また、マイルス・デイヴィスは”In A Silent Way”や”Bitches Brew”を引っ提げていよいよ電化の道を歩み出す。

同じ頃、鉄のカーテンの向こう、ソビエト連邦では・・・。
すなわち、ドミトリー・ショスタコーヴィチの晩年の10年間。
例えば「少ない音を通して最深の意味を持たせ、最大限に語るのが彼の弦楽四重奏曲なのだ」と荒井英治さんは言う。

ボロディン四重奏団の旧盤を聴いた。

ショスタコーヴィチ:
・弦楽四重奏曲第2番イ長調作品68(1944)
・弦楽四重奏曲第10番変イ長調作品118(1964)
・弦楽四重奏曲第13番変ロ短調作品138(1970)
ボロディン四重奏団
ロスティスラフ・ドゥビンスキー(第1ヴァイオリン)
ヤロスラフ・アレクサンドロフ(第2ヴァイオリン)
ドミトリー・シェバーリン(ヴィオラ)
ワレンチン・ベルリンスキー(チェロ)

作品118の第3楽章アダージョ(パッサカリア)に涙する。何という祈り!そもそもショスタコーヴィチが弦楽四重奏というジャンルに手を染めるようになったのは作曲家としての地位を確立して随分経てからで、その意味では最晩年に至るまでの15曲はいずれも創意と工夫、そして挑戦に満ちており、あらゆる意味で20世紀音楽の最高峰だと断言する。

それにしても当時のボロディン四重奏団の、まるで4つの楽器をひとりが手足のように操るが如くの鉄壁のアンサンブルに舌を巻く。さらには絶妙な呼吸から生み出されるテンポ感と、これ以上はないと思われるディナーミクの妙味。

そして、名曲作品138。シベリウスも最後の交響曲は「単一楽章」へと収斂されたが、ある意味ここがショスタコーヴィチのこのジャンルでの天井だった(はず)。その後に続く作品142&144はもはや「黄泉の音楽」であるといえるし、あるいはまたその天井を超えた「天上の音楽」であるともいえる。
ともかく主役がヴィオラであることがこの作品の深みを一層決定づける。

初演者のひとりであるドミトリー・ツィガノフはこの曲について次のように言う。

私の意見では、この曲は、人間の運命についての霊感に満ちた感動的な物語である。
ボロディン四重奏団新盤VICC-40018~23ライナーノーツ

納得・・・。あの頃は、来るべき未来に希望をもちつつ、人々が(特に芸術家、アーティストは)人間というものについて深く洞察しようとした時代だった。そして、半世紀を経た今、同じことがまた問われつつあるのかも・・・。

 


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