フェリアー+スヴァンホルム+ワルター&ニューヨーク・フィルの「大地の歌」を聴いて思ふ

mahler_erde_ferrier_svanholm_walter音楽にパッションは不可欠。しかも、尋常ならざる「それ」を得た音楽に触れると自ずと心震え、身体だけが取り残されるかの如く魂が彼方へと奪われる。作品の心と演奏者の想いが一体となり、感性は開花する。そしてそのエネルギーは動的となり、やがてうねりと化す。
どんなに古いものでもライヴ録音の中にはパッションがはっきりと刻み込まれ、一聴恍惚を覚えるものが存在する。
キャスリーン・フェリアーがブルーノ・ワルター指揮ニューヨーク・フィルをバックに歌った「大地の歌」に卒倒した。このマーラーは真に凄い。管弦楽の運びは明らかにブルーノ・ワルターのそれであり、この作品を自家薬籠中にした巨匠の一世一代の記録として後世に残すべきもののひとつであると断言できるが、何より素晴らしいのはテノールを歌うセット・スヴァンホルムの存在。これほど強烈な、うねる、パッショネートな「大地」を聴かされると名盤の誉れ高いユリウス・パツァークを据えたウィーン・フィル盤がつい霞んでしまうほど。ともかくまずは第5楽章「春に酔える者」を聴いてほしい。筆舌に尽くし難い、荒れ狂うスヴァンホルムに、渾身のワルターの棒が同じテンションで伴奏を施しているのか、あるいはその逆に思わず高揚した巨匠の棒にスヴァンホルムがつられて激烈になっているのか、そのあたりは不明だが、こんな「大地の歌」はついぞ聴いたことがない。

アメリカの音楽界への私の参与のほどは、この国に常時滞在しているあいだに、一層強化・拡大された。1941年1月にはニューヨーク・フィルハーモニー協会に復帰し、それ以来毎年そこの客演をつづけてきた。・・・(中略)・・・マーラーの「大地の歌」を演奏したのも、同じ時期にあたる。私は、そもそも指揮をするかぎり、これまでと同じように、ブルックナーとマーラーの作品を代弁しつづけるであろう―彼らの音楽からそそぎでる高揚の源泉を解明することは、私の生涯の課題のひとつだったのである。
「主題と変奏~ブルーノ・ワルター回想録」内垣啓一・渡辺健訳P455

マーラー:交響曲「大地の歌」
キャスリーン・フェリアー(メゾ・ソプラノ)
セット・スヴァンホルム(テノール)
ブルーノ・ワルター指揮ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団(1948.1.18Live)

第1楽章「大地の哀愁に寄せる酒の歌」中間の管弦楽における弦のうねりと金管群の咆哮を耳にすると、確かにワルターは「高揚の源泉」を探るかのよう。そして、最後の”Dunkel ist das Leben, ist der Tod”というフレーズに感じられるスヴァンホルムの意気込みと祈りの極致。
第2楽章「秋に寂しき者」における「侘び寂」の境地を表現するに相応しいフェリアーの声は、ここでも幽玄かつ涙に濡れる。音は割れ、決して良好な音質とは言えないのだけれど、彼女の独特のヴィブラートを伴った深い歌唱の前にそんなことは即座にどうでも良くなる。
第3楽章「青春について」のスヴァンホルムは前のめりだ。このあたりから彼の魂のギヤがトップに入り、一層ヒート・アップしてゆく。一方、フェリアーは相変わらずの落ち着いたクールな歌唱を示す(何という対比!)。さらに、第4楽章「美について」の強烈なアッチェレランドに唖然。と思いきや突然のブレーキ・・・。テノールに刺激されるように、フェリアーのハスキーでくぐもった独特の低音はいつになく熱く、一層ドスが利く。

終楽章「告別」は、やっぱりフェリアーの独壇場・・・。これほど彼女の声質に似合う音楽はなかろう。
第2節に見る、あまりに人間臭い感極まる歌と大自然を表現する管弦楽の相見える妙味。

美しき小川のせせらぎ 心地よく
この夕闇を歌い渡るぞ
花は黄昏淡き光に色失う
憩いと眠りに満ち足りて 大地は息づく
全ての憧れの夢を見ようとし始める

管弦楽による長い間奏の後の「歌」は一層深く哀しい。

私の孤独な心 癒すべく憩いを自ら求めゆき
私が歩み行く彼方には、私が生まれし故郷あり

私は二度と漂白し、さまようことはあるまいよ
私の心は安らぎて、その時を待ち受ける

愛しき大地に春が来て、ここかしこに百花咲く
緑は木々を覆い尽くし 永遠にはるか彼方まで
青々と輝き渡らん
永遠に 永遠に・・・

消え入る音楽の余韻に浸りたいところだが、(おそらく当時の)アメリカの聴衆は拍手があまりに早い。唯一残念なところ。

※「大地の歌」歌詞はWikipediaより抜粋引用

 


日記・雑談(50歳代) ブログランキングへ


コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む