「舞踏の聖化」、の兄弟!

beethoven_8_weingartner.jpg今日のセミナーの中でも受講いただいた方に話をしたのだが、人は誰しも「他人の評価」が気になるもの。他人の下す相対評価で自己を判断したところで正確な結論は導けない。あくまで自分自身が自己に対して下す「自己評価」が大事なのである。
とはいえ、口で言うは簡単、実際にそういう状況に出くわすとついつい悪い癖が出てしまう。そういうことを紛いなりにも伝授している僕自身すら時折「他者評価」を気にするあまり軸がぐらついてしまうことがある。

ビジネスの世界においては相手に過剰に期待せず、ともかくベストを尽くすことを教えられた。先日の滋賀ダイハツ販売株式会社での講演会では多分に反応を意識しすぎたきらいがある。通常個人向けのセミナーを開催している限りにおいては、お金も時間も費やして自己投資として参加する方が多いこともあり、想像以上の反響がある。それが思ったほどの反応がないと「不安」になるのだ。人間の闘いというのは、いつも「不安」との闘いなのだろう。・・・・自分を信じて、そして勇気をもって。

ベートーヴェンという男の凄さは、生涯自分というものを信じて追究したところにあると僕は思う。例えば、9つの交響曲だけをとってみても、これだけ各々に個性があり、しかも番号を追うごとに進化する音楽は史上極めて稀。どれひとつとして駄作はなく、存在価値がある。後世の作曲家が一人残らずベートーヴェンを神と崇め、その影に怯え、追いつき追い越そうとしたことがなるほどよくわかるというもの。

ベートーヴェン:交響曲第8番ヘ長調作品93
フェリックス・ワインガルトナー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1936.2録音)

いわずと知れた名盤中の名盤。このワインガルトナー盤を耳にすると、実は第8交響曲こそベートーヴェンの心情を表す、最も表現したかったことなのではないかと思わせられる。ワーグナーをして「舞踏の聖化」と言わしめた第7交響曲の後に、これほど粋でお洒落でこじんまりと昇華された音楽が書けるという事実に畏れ入る。200年というときを経ても音楽愛好家に随一と評されるベートーヴェンの天才性はやはり普遍的である。

耳が聴こえなくなっても自身を信じ、高級な音楽を生み出すことに邁進したベートーヴェン。自己の中に絶対なるもの-智慧であり、真実であり、神である-があるということを思い出させてくれる。感謝。

※カップリングの「英雄」交響曲も実は素晴らしい。恣意的でない、自然な表現に好感が持てる。

2 COMMENTS

雅之

こんばんは。
経済活動も、相場も、スポーツも、人間活動はすべて波動ですよね。楽観と悲観の間を波のように揺れ動くものです。谷が深ければ、山も高い。その逆も然り。音楽も長調と短調があるから面白いのです。モーツァルトのト短調が暗いからといって、無理やり長調に変調して弾くこともないでしょう(笑)。あるがままに、それが平常心を保つコツだと、私は思っています。
ご紹介のベト8のワインガルトナーの名盤、1936年の演奏ですね。当時のウィーンフィルは現在とは別物の素晴らしさですよね。今ではなく、当時のウィーンフィルの実演が聴けるなら、S席10万円でもチケットを手に入れたいです(岡本さんもぷみさんもそうでしょ!)。
岡本さんのブログでも、最近20世紀初頭から両大戦間の作品や演奏の話題が多いような気がしますが(笑)、私もこの時期について、とても興味があります。作曲家では、ラヴェルも、ガーシュウィンも、ショスタコも、プロコフィエフも、ラフマニノフも、ストラヴィンスキーも、バルトークも。指揮者では、フルトヴェングラー、ワルター、メンゲルベルク・・・、皆100年に一度の歴史的大波の中を生きてきた人たちです。
それにしては、同時代を生きたワインガルトナーの指揮は、どれも平常心を保っているなあ。見習うべきですか(笑)。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
そ、ワインガルトナーの指揮は意外に「平常心」です。多分実演を聴けたら本当にぶっ飛ぶくらいの「神懸り」が体験できるのではと僕は思います。そういう意味では10万円なら安いですね(笑)。おっしゃるとおり「あるがまま、let it be」です。
>岡本さんのブログでも、最近20世紀初頭から両大戦間の作品や演奏の話題が多いような気がしますが
確かに!あと50年早く、しかも欧州に生まれていたら戦争という惨禍に見舞われながらも類稀な名演奏に出くわせたのではないかと残念でなりません。まぁ、今の日本という場所に生まれ得たことも奇跡なんですがね。

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