ロイド=ジョーンズのスタンフォード交響曲第3番&第6番を聴いて思ふ

stanford_3_6_lloyd-jones025グスターヴ・ホルストやレイフ・ヴォーン=ウィリアムズの師であったサー・チャールズ・ヴィリアード・スタンフォードは親ブラームス派の人。彼が残したあまりに浪漫的な交響曲は、いずれもブラームスの影響を色濃く受けるが、ブラームス以上にその旋律はポピュラーで、音調は近づきやすい。

スタンフォードの「ブラームスの思い出を少々―『研鑽と記憶』(1904)より」が面白い。

大作曲家を最初に見かけたのは1873年、ボンで開催されたシューマン・フェスティバルである。音楽監督はヨアヒム。ブラームスはライオンのような色の髪で、ヒゲをきれいに剃り、「第2の母」クララ・シューマンの隣に座っていた。・・・(中略)・・・
大物と呼ばれる人々は、見ず知らずの人間と相対するために、鎧を身に付けているものだ。ブラームスも同じである。・・・ブラームスが身にまとっていたのはまさしく「不作法」という甲冑だった。しかし・・・、鎧を脱ぎ捨てるとすぐさま、・・・子供のように純真なのだ。
天崎浩二編・訳/関根裕子共訳「ブラームス回想録集③ブラームスと私」(音楽之友社)P181-182

気難しさの裏にあった、隠れた「天真爛漫さ」こそブラームスの創造力の源である。少なくとも音楽、あるいは芸術全般に対する感性は群を抜いており、スタンフォードもこのあたりにシンパシーを抱いたはずだ。

ブラームスの人柄とは、非凡を絵に描いたようなものである。ユーモアがあり豪胆で目端が利く。周囲に向けては態度が悪かったこともある。しかし子供好きで、彼らからもその文句のつけようのない部分と、ちょっとひねくれて「お下品」なところを慕われていた。
~同上書P188

ブラームスの聖俗入り乱れる性格こそが、その音楽に大いに反映される。人は自分にないものを持っている人に憧れるもの。

ブラームス晩年の交友関係でいちばん興味深いのは、ハンス・フォン・ビューローとの付きあいだ。ブラームスはその洞察力で、多彩でスパイスの効いたこの人物の、高貴な人柄を評価していた(それができる人はほとんどいなかった)。ビューローのことをけなす人がいればブラームスは、その立派で他に類を見ない人柄を思えと言い、ビューローはそんなブラームスに、いつでも献身的に報いていた。
~同上書P189-190

ハンス・フォン・ビューローにせよ有能な指揮者ではあったが、例のワーグナーとコジマにまつわる一件において、スタンフォードの言う、まさに高貴であるがゆえの弱さが露呈する。

ほかの立派な人たちが大変な苦しみを背負っているのを見るにつけても、そう思う。わたしとて苦しんでいないわけではない。だが、それはリヒャルトゆえの、ハンスゆえの苦しみであって、けしてわが身の苦悩ではない。
1870年10月21日金曜日
三光長治・池上純一・池上弘子訳「コジマの日記2」(東海大学出版会)P198

「コジマの日記」には自暴自棄になり、絶望するハンスを描きつつ心なしか自身を擁護するコジマの心情が直接的に語られる。ハンスを捨て、リヒャルトに嫁いだ自身の葛藤が随所に吐露されるが、男性目線から客観的に眺めてみて、自分が蒔いた種にもかかわらず、実に自己中心的な憐みの心情が滔々と語られる筋に少々寒くなるのである。
それにしても、立場や状況によって、他人が描くその人の印象がこうも違うのかと驚く。

閑話休題。サー・チャールズ・ヴィリアード・スタンフォード没後90年。
スタンフォードの交響曲を聴く。

スタンフォード:交響曲集第3集
・交響曲第6番変ホ長調作品94「偉大な芸術家ジョージ・フレデリック・ワッツのライフワークに敬意を表して」(2007.6.18&19録音)
・交響曲第3番ヘ短調作品28「アイルランド風に」(2006.7.25&26録音)
デイヴィッド・ロイド=ジョーンズ指揮ボーンマス交響楽団

wat_love_and_death第3交響曲の第3楽章アンダンテ・コン・モートの主題はどう考えてもブラームスの第4交響曲第2楽章アンダンテ・モデラートからの引用にしか思えないが、元はアイルランド民謡らしい・・・。それにしても、冒頭のハープのアルペジオの何とも可憐な美しさ。こういう音楽作品が一般的に聴ける機会が少ないというのは真に残念なことだ。

そして、イギリス、ラファエル前派・象徴主義の画家ワッツの絵画「愛と死」にインスパイアされ、創作された交響曲第6番は、明朗な音調の内側に何とも表現し難い暗さが垣間見える傑作。
第2楽章アダージョ・エ・モルト・エスプレッシーヴォのイングリッシュ・ホルンによる哀愁を帯びた主題(愛のテーマ)に涙する。また、終楽章モデラート・エ・マエストーソの雄渾な主題と壮大な展開に、生も死も愛を媒介にしたひとつであることを悟る。それにしてもハープ伴奏の美しさよ・・・(どこかにチャイコフスキーも木霊する)。

 

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