比較するべからず

僕が楽聖の第7交響曲に最初に触れたのは高校1年生の頃、フルトヴェングラー指揮するベルリン・フィルの戦時中録音だった。最初の一音から電気が走ったかのような衝撃を受け、以来フルトヴェングラーを信奉し、寝ても覚めても「フルヴェン」という時期が長く続いた。ベートーヴェンのジャズ・ミュージックやロック音楽を先取りしたかのような革新性をおそらく感覚的に捉えていたのだろうと想像するが、ちょうど同じ時期に聴いたベーム&ウィーン・フィルの来日公演の愚鈍な演奏に失望を覚え、ベートーヴェンの交響曲はどうしてもフルトヴェングラーでなければならぬという確信に至った(でも、それは盲信であり、錯覚であることが後年わかることになる)。

先年、件のベームの録音がAltusレーベルから復刻され、恐る恐る買い求め、聴いた時の衝撃は忘れられない。「えっ!」となったきり、言葉が出ない。こんなにも熱く、軸のぶれない堂に入った演奏だったのかと若気の至り、自身の不甲斐なさに愕然とした。そう、訳もわからず比較などするべきじゃないと反省した。ひとつひとつが個性的で、それぞれに意味があり、どれひとつとして無駄な演奏はないということをあらためて知った。ましてや、世界を代表する音楽家のパフォーマンスが悪かろうはずがない。所詮、自分の趣味に合ったか合わなかったかというだけの話。そういうものも年輪を重ね、経験を積めばまったくもって勇み足だったことがわかる。人は皆、誰でも才能があり、オンリーワンの存在だということを本日もまた思い出させていただいた。感謝。

久しぶりに、僕をベートーヴェンの革新の世界に導いてくれた音盤を取り出した。最初に聴いたのは東芝エンジェルのアナログ盤だったが、その音盤は既に手元にない。あるのはオーパス蔵の復刻盤をはじめとして、グラモフォンのCD、メロディアの復刻盤、あるいはTahraのCDなどなど。よくもまぁここまで集めたものだ。とはいえ、思い出の品はそうは簡単に手放せない(昨日の記事と矛盾するが・・・苦笑)。今聴いてもあの時の感動がまざまざと蘇る。

ベートーヴェン:
・交響曲第4番変ロ長調作品60(放送録音)
・交響曲第7番イ長調作品92
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

第7シンフォニーはロック音楽だということは前にも書いた。壮年期のベートーヴェンが、これほどまでに自己を解放し、さらけ出した記録はそうそうにない。それをまた20世紀の不滅の指揮者が見事に再現しているところが奇跡だと思えてならない(有事だったことがこの演奏の成り立ちに拍車をかけているのかも)。

今こそひとりひとりが立ちあがる時であり、自身のもっているものを使って世の役に立つ時であるとしみじみ感じる。そんなことをこの稀代の演奏を聴いて考えた。


3 COMMENTS

雅之

おはようございます。

>今こそひとりひとりが立ちあがる時であり、自身のもっているものを使って世の役に立つ時であるとしみじみ感じる。そんなことをこの稀代の演奏を聴いて考えた。

岡本太郎生誕100年企画 ドラマ「TAROの塔~芸術は爆発だ!」
http://www.nhk.or.jp/dodra/taro/
を昨日すべて観終え、気付き、大いに啓発されました。

現在の僕
http://www.nhk.or.jp/dodra/taro/

未来の僕
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Tower_of_the_sun%27s_face.jpg

だけど、影だって燃えている
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:%E5%A4%AA%E9%99%BD%E3%81%AE%E5%A1%94_%E8%83%8C%E9%9D%A2.jpg

大切な人を失い、大きな悲しみに暮れ、
人災にやり場のない怒りを向けている人々に、
とても「頑張れ」などとは言えない。

今は、ただネガティブに燃えたっていいじゃなしか!
それはポジティブと表裏一体なんだから!!

フルトヴェングラーの演奏を聴いても、
黒い影が一緒に燃えているような気がします。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
すっかりテレビと離れた生活をしておりまして、今回の岡本太郎のドラマ見そびれてしまいました。
岡本太郎の著作は好きでいろいろと読んでおりますが、真に残念です。
それにしても太陽の塔の顔の意味、きちんと知りませんでした!!
ありがとうございます。

>今は、ただネガティブに燃えたっていいじゃなしか!
>それはポジティブと表裏一体なんだから!!

同感です!

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