クイケン3兄弟ほかによるバッハ「音楽の捧げもの」(1994.2録音)を聴いて思ふ

bach_musicalisches_opfer_kuijken_1994169全身全霊、バッハの集大成。
王の主題に基づく3声のリチェルカーレに涙する。宗教の枠を超えた絶対の魂が刻印される無駄のない、人間離れした「神々の声」。フリードリヒ大王への謁見がもたらした奇蹟。

1747年、彼はベルリン旅行をおこない、その折にポツダムでプロシャ国王陛下の御前で演奏するようとの恩命に浴した。陛下御自らが彼のためにフーガ主題をおひきになり、その主題を彼がただちにピアノフォルテで展開してみせたので、陛下はことのほかお喜びになった。それから陛下は6つのオブリガート主題をもつフーガが聞きたいとお仰せになったが、その陛下命にたいしても彼は、自分で選んだ主題にもとづいてただちに応じ、陛下をはじめ居ならぶ音楽家たちを大いに驚嘆させたのであった。ライプツィヒに戻ってから彼は、陛下からあたえられた主題にもとづく声と声部のいわゆるリチェルカーレのほか数曲を楽譜にしたため、それを印刷して国王に献呈したのであった。
(エマーヌエル・バッハ、アグリーコラ/東川清一訳「死者略伝」)
「音楽の手帖バッハ」(青土社)P89

この年のバッハには、様々な出逢いがあった。おそらくモーツァルトにとってのフリーメイスンのような、精神の拠り所となったであろう「音楽学術協会」への入会がバッハをますます内面への旅へと駆り立てたのだと思う。国王への感謝の意を表し、わざわざ「音楽の捧げもの」なる作品を短い期間に編んだことはある意味彼の遺言であったのでは?
後世の音楽家たちが困るのは楽器指定が明確でないことだそうだが、それすらバッハの意識的な企てであり、どんなものにも対応可能な「中庸」を示したかったのではないのかと思われるほど。本当に素晴らしい。

J.S.バッハ:「音楽の捧げもの」BWV1079
・3声のリチェルカーレ
・王の主題に基づく種々のカノン
・上5度のカノン風フーガ
・6声のリチェルカーレ
・謎のカノン
・フラウト・トラヴェルソ、ヴァイオリンと通奏低音のための、王の主題に基づくソナタ(トリオ・ソナタ)
・無窮カノン
ジギスヴァルト・クイケン(ヴァイオリン)
バルトルド・クイケン(フラウト・トラヴェルソ)
ヴィーラント・クイケン(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
ロベール・コーネン(チェンバロ)(1994.2録音)

実に自然で中庸のバッハ。こんなに優しい音色は聴いたことがないくらい。
2つのリチェルカーレのあまりの「空(くう)」的響きに跪かざるを得ない。トリオ・ソナタの見事なアンサンブル。3者が完全一体となってバッハの音楽を奏する様を想像するだけで意識はあちらへ・・・。

ちなみに、バッハは生涯にわたり子どもたちのことで悩まされたという。

なかでもアンナ・マグダレーナとの間にもうけたゴットフリート・ハインリヒ(1724-61)は、音楽的な能力は十分だったが、知的障害を持ち独り立ちできない状態にあった。
また、独立しても目の離せない子供もいた。マリア・バルバラとの間に生まれた三男のヨハン・ゴットフリート・ベルンハルト(1715-39)は、才能には恵まれていたものの自己管理能力に欠けており、父バッハの力添えで就職しては、借金を重ねて夜逃げを繰り返すという「不肖の息子」ぶりでバッハを嘆かせ、ついには24歳の若さで原因不明の死を遂げてしまった。
とくにその才能を買っていた長男のヴィルヘルム・フリーデマンの就職活動にも、バッハは熱心に心を砕いた。だが「偉大な父」の長男として、よくも悪しくもバッハに多くを負っていたフリーデマンは、父の死後精神の安定を失い、孤独と放浪のうちに生を終える。
加藤浩子文/若月伸一写真「バッハへの旅」(東京書籍)P306

喜びと苦悩の両方をお与えになる神様はやっぱり愛、すなわち平等なのである。

 

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1 COMMENT

畑山千恵子

フリーデマンの場合、バッハがあまりにも親バカだったことが災いしました。逆にエマヌエルはしっかり自立し、ハイドン、ベートーヴェンに大きな影響を与えました。「正しいクラヴィーア奏法」は今日も一読の価値がある名著です。ちなみに、ハイドンがエマヌエルに会おうとしたものの、エマヌエルは亡くなった後で会えませんでした。
クリスティアンはオペラにひかれ、イタリア、後にイギリスに渡り、幼いモーツァルトに影響を与えましたね。モーツァルトはクリスティアンの訃報を聞き、音楽家として弔意を表しました。

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