グリモー&アシュケナージのラフマニノフ協奏曲第2番(2000&2001録音)ほかを聴いて思ふ

rachmaninov_grimaud372エレーヌ・グリモーの博識に驚嘆する。
しかも、彼女の見解のことごとくが的を射ており、首肯することばかり。知識を盾にした正論は時に嫌われる。おそらく幼少期より閉じこもりがちだった彼女は、空想の世界に浸りながらも「何が正しいのか」、その真理を体得していったのだろうと思う。

彼女は他人にも厳しいが、自分にはもっと厳しい。
自伝には、最初のレコーディングであったラフマニノフのソナタのプレイバックを聴いた時の彼女の心の内が吐露されている。

これは存在している!これは私、これは私のもの、私が死んだあと何年間も私であり続けるもの―同時に私は、おそらくはまだ生まれてもいない見知らぬ人に、私がこれほど愛したラフマニノフのソナタを運んでいく・・・。
他方では、感動がおさまると、恐怖が私に襲いかかった。この録音には欠点しか聞こえなかった。ひどくがっかりした。あれほど期待していたのに!弾いている瞬間は演奏に完全に集中し、満足できないパッセージは好きなだけ弾きなおせるのだから、安全ネットはしっかりと張られていると知っていただけになおさら熱狂して、私は舞いあがっていた。極限まで精密化された録音スタジオで、自分自身とのユニゾンで演奏する密やかな歓びが、だれにわかるだろう?ゆっくりと呼吸し、この脊髄で熱く燃える点を鎮め、音に色を与える。
エレーヌ・グリモー著/北代美和子訳「野生のしらべ」(ランダムハウス講談社)P149-150

この情景と心理描写の筆の巧みさ!そして、そうであるがゆえ、彼女が実際にスコアを音にしたときに醸される色香・・・。

ラフマニノフ:
・ピアノ協奏曲第2番ハ短調作品18
・前奏曲嬰ト短調作品32-12
・練習曲集「音の絵」ヘ短調作品33-1
・練習曲集「音の絵」ハ長調作品33-2
・練習曲集「音の絵」嬰ハ短調作品33-9
・コレルリの主題による変奏曲作品42
エレーヌ・グリモー(ピアノ)
ウラディーミル・アシュケナージ指揮フィルハーモニア管弦楽団(2000&2001録音)

ト短調前奏曲や「音の絵」に感じられる芯の強さは彼女の性質そのものを如実に語る。何より「コレルリ変奏曲」の素晴らしさ!!強音は決してうるさくならず、弱音はぞくぞくするほど美しく、何という崇高な音楽であることか。
しかしながら、協奏曲については、僕は採らない。アシュケナージはラフマニノフを得意とするが、演奏については出来不出来がある。否、というよりあまりに型にはまりすぎるがゆえに相応なものはそれで良いのだが、もう少し羽目を外してほしい、そう、熱狂が欲しい時にはどうにも不向きなのである。指揮においてもその優等生ぶりは相変わらずで、飛翔しようとするエレーヌを閉じ込めてしまっているように僕は感じられる。

とはいえ、エレーヌ・グリモーのラフマニノフは素晴らしい。
今日はエレーヌの生誕日らしい・・・。おめでとうございます。

 

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