Louis Armstrong & Duke Ellington:Recording Together For The First Timeを聴いて思ふ

ellington_armstrong_basie182中也の未刊の詩篇から一篇をひもといた。

心をゆすり、ときめかし、
嗚咽・哄笑一時に、肝に銘じて到るもの、
清浄こよなき漆黒のもの、
暖を忘れぬ紺碧を・・・
「道化の臨終―Etude Dadaistique」より
大岡昇平編「中原中也詩集」(岩波文庫)P449

中也の魂が同期する。時に明朗快活で、時にメロウで。
とはいえ、この人たちの音楽はどこか哀しい。歴史上のすべての悲哀を背負っているかのように。
最初で最後の、いわば世紀の一大協演だったらしい。
エリントンの作曲した作品をアームストロングが歌い、演奏する。2人の巨匠が違和感なくひとつの音楽を共にする喜びとでもいうのか、どの瞬間も愉悦に溢れ、聴く者を幸せにする。

デューク・エリントンは有名になり始めた頃、ウィル・マリオン・クックのところにアドヴァイスを求めに行った。このアフリカ系アメリカ音楽の長老は、セントラル・パークのなかを時間をかけて歩き回るという昔ながらのやり方で、くだけた形のレッスンを行なった。・・・クックはまたエリントンに自分独自の表現を見つけるようにと指示した。「音楽院に行くべきなんだが、おまえは行かんだろうから、俺が教えてやるよ。まず論理的な方法を見つけることだ。見つかったら、捨ててしまえ。そして本当の自分(インナーセルフ)が現れて、導いてくれるがままにしろ。別の人間になるんじゃなくて、自分自身になれ」。
アレックス・ロス著/柿沼敏江訳「20世紀を語る音楽」(みすず書房)P162

得たものは一旦捨てる。そしてそれを繰り返せと。これこそ「守破離」の極み。この長老のお陰でデューク・エリントンという存在があるのである。クックの忠告は、音楽創造の世界に限らずすべてに通じる金言だ。
エリントンは言う。

アメリカ黒人の体験をシンコペーションの語法で描くつもりだ。・・・私の所属する人種について、その人種の一員によって書かれた本物の記録である。
~同上書P165

勉強する機会があれば、黒人はすぐにもブギウギからベートーヴェンに乗り換えるでしょうというサージェント氏の最期の発言に、僕は驚きました。そうかもしれない、でも何と恥ずべきことか!
~同上書P166

マイルス・デイヴィスの場合もそうだが、やはりあの当時の黒人ジャズメンの心底には長く受け継がれ刷り込まれた劣等感や怒りの爆発がれっきとあり、それが音楽の原動力だったよう。そのことは彼らの言葉から如実に感じられる。民族性や人種や、そういうものは人間が拵えた幻に過ぎないのだけれど、しかし一方でその幻たる区別があったがゆえに様々な音楽ジャンルが生れ、それぞれに独自性のある作品が生まれ得た。人間というのは面白いものだ。

Louis Armstrong & Duke Ellington:Recording Together For The First Time(1961.4.3-4録音)

Personnel
Duke Ellington (piano)
Louis Armstrong (trumpet, vocals)
Barney Bigard (clarinet)
Trummy Young (trombone)
Mort Herbert (bass)
Danny Barcelona (drums)

何と優しい歌声。何と嬉々とした音楽。何より本人たちがこの世紀の邂逅を楽しんでいるのだからそれも当然。例えば、”I’m Just a Lucky So and So”におけるアームストロングの深々としたパッションに感涙。エリントンの即興的なピアノの調べにも心動かされる。

そして、カウント・ベイシーとのコラボ作品。こちらも最初で最後の協演。

Duke Ellington & Count Basie:First Time! The Count Meets The Duke(1961.7.6録音)

Personnel
Duke Ellington, Count Basie (piano)
Cat Anderson, Willie Cook, Eddie Mullens, Ray Nance, Sonny Cohn, Lennie Johnson, Thad Jones, Snooky Young (trumpet)
Lou Blackburn, Lawrence Brown, Henry Coker, Quentin Jackson, Benny Powell (trombone)
Juan Tizol (valve trombone)
Jimmy Hamilton (clarinet, tenor saxophone)
Johnny Hodges (alto saxophone)
Russell Procope, Marshal Royal (alto saxophone, clarinet)
Frank Wess (alto saxophone, tenor saxophone, flute)
Paul Gonsalves, Frank Foster, Budd Johnson (tenor saxophone)
Harry Carney, Charlie Fowlkes (baritone saxophone)
Freddie Green (guitar)
Aaron Bell, Eddie Jones (bass)
Sam Woodyard, Sonny Payne (drums)

冒頭、エリントン作”Battle Royal”の熱狂と見事な前進性。続く、ムーディーなバラード”To You”に込められる深い親愛の情。何より参加メンバーのそれぞれのソロのあまりの巧さに卒倒。当時のベイシー楽団の力量に舌を巻く。

1961年の奇蹟。「別の人間になるんじゃなくて、自分自身になれ」というウィル・マリオン・クックの言葉が響く。

 

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