全体観と複雑性理解力~Miles In The Sky

V.S.O.P.クインテットの原点であり、マイルスがひとつの壁を乗り越えた地点。
歴史というのは面白いもので、何十年も経過した後に真の意味がやっと一般大衆に到達する。ともかく人は「変化」を怖れる生物である。できるなら現状維持を貫く方が楽だと考える(周囲は少しずつだけれど確実に変わって行っているのに)。

ストレスが人の心身に変調を来すことは古くから言われていること。でも、全くのストレスがない状態だと人は鈍ってしまい、やっぱり心身がおかしくなるそうだ。無理難題や多少の壁はあった方が良いということ。それを目標と捉えられるなら、乗り越えるためのものだから。

Miles Davis:Miles In The Sky(1968.1.16,5.15-17録音)

Personnel
Miles Davis (trumpet)
Wayne Shorter (tenor saxophone)
George Benson (electric guitar)
Herbie Hancock (piano, electric piano)
Ron Carter (bass)
Tony Williams (drums)

エレクトリック・マイルスの嚆矢。1960年代末の混沌を打破する意思が働いたのか、本作に収められたアコースティックとエレクトリックが入り乱れる楽曲たちはいずれも挑戦的だ(ただし、現在の耳で聴くと当たり前だがそれほど斬新には聞こえない)。当時のマイルス信奉者は戸惑ったのでは?(Bob Dylanがいきなりステージにエレキを抱えて登場し、”Like A Rolling Stone”を演った時のように)
それでも、この発想があったから後の新たな潮流(フュージョン)があるのである。
僕が思うに、そもそもこのアルバムのタイトルとジャケットがすべてを言い表している。
まさに鳥の目で俯瞰する天才の全体観と複雑性を理解する力。世界のすべてが、空間も時間もすべてがつながっているんだということをわかって(無意識だろうが)マイルス・デイヴィスは自身の音楽に対峙していたのである。
そもそも、マイルス・チルドレンといわれる面々のその後の活躍ぶりはいかばかりか。
先見の明と、才能を見抜く力と引き出す能力と・・・。
ちなみに、第2曲”Paraphernalia”(がらくた、あるいは不用品という意味だが、いかにも逆説的なタイトルだ)ではジョージ・ベンソンがギターを弾く。
見事に調和し、素敵な音楽が奏でられる。
すべての楽曲がかっこ良すぎる・・・。


2 COMMENTS

雅之

こんばんは。

ご紹介のアルバムとは真逆のお話を。

生誕70年(!)のポール・マッカートニーがジャズアルバムを出しましたよね。

Kisses on the Bottom  ポール・マッカートニー
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%AD%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B6%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%83%88%E3%83%A0-%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%8B%E3%83%BC/dp/B006GHC3BK/ref=sr_1_4?s=music&ie=UTF8&qid=1336827884&sr=1-4

今年はビートルズがデビューしてから50年(私と同い年!!)でもありますので、何か因縁と胸騒ぎ(?)を感じ、買って聴いてみました。エリック・クラプトン、スティーヴィー・ワンダーや、ロンドン交響楽団まで結集しての豪華な録音ですが、意外なことに実に落ち着いた味わいが素晴らしく、心から堪能できました。

まさに鳥の目で俯瞰する天才の全体観と複雑性を理解する力。世界のすべてが、空間も時間もすべてがつながっているんだということをわかって(無意識でしょうが)ポール・マッカートニー は70歳になろうかという現在も、自身の音楽に対峙しているのです。

ジャズからロックへ。ロックからジャズへ。逆もまた真なり、ですね。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
何と!これはそんなにいいですか!?
ポールのアルバムはもう随分長いこと聴いておりません。

しかしながら、雅之さんが「実に落ち着いた味わいが素晴らしく、心から堪能できました」とおっしゃるならば聴かなければ・・・。
それにしても70歳ですか・・・。いやはや、大したものです。さすがです。

>ジャズからロックへ。ロックからジャズへ。逆もまた真なり、ですね。

この「ジャンルを超えて互いに影響し合う」というのがそもそも音楽の醍醐味ですよね。
20世紀クラシックの楽しみ方もそのあたりにあるように思います。(ポゴレリッチの解釈もこのことによって「是」だと証明されます)

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