あまりに美し過ぎて言葉を失う。
「マ・メール・ロワ」が素晴らしい。
20本の指が1台のピアノの上を縦横無尽に駆け踊る。
異色の個性と個性が見事に融け合う美しい音楽物語。
あなたが偉大なヴィルトゥオーゾになったとき、そして私がおじいさんになって栄光に包まれるかまったく忘れられるかしたとき、あなたはきっと楽しい思い出をもっていることでしょう。それは、ひとりの芸術家に、彼のかなり特別な作品が、まさしくふさわしく演奏されるのを聞くという、めったにない喜びを与えたという思い出です。「マ・メール・ロワ」を子供らしく、才気豊かに演奏してくれて、本当に本当にありがとう。
(1910年4月21日付、ラヴェルからジャンヌ・ルルー宛手紙)
~アービー・オレンシュタイン著/井上さつき訳「ラヴェル生涯と作品」(音楽之友社)P82
浮足立つ、心から感激する作曲家の言葉は、演奏もさることながら、この作品がラヴェルにとって自信に満ちた傑作であることを証明する。
1998年、「別府アルゲリッチ音楽祭」がはじめて彼の地で開かれたとき聴いた、マルタ・アルゲリッチとチョン・ミュンフンの二人が颯爽と奏でたあの光景は今でもはっきりと記憶に残る。確かあれは元々のプログラムにはなく、急遽披露されたのではなかったか。あの夜の演奏は、本当に肩の力の抜けた、それこそ「子供らしく、才気豊かな」ものだった。
アルゲリッチとプレトニョフが録音した演奏を聴いて思った。
あの日のあの演奏以上に完全な演奏があったのかと。同時代の二人の天才がひとつになって奏でる奇蹟。
・プロコフィエフ:バレエ組曲「シンデレラ」作品87(プレトニョフによる2台ピアノのための編曲版)
・ラヴェル:4手による子どものための5つの小品「マ・メール・ロワ」
マルタ・アルゲリッチ(第1ピアノ、左サイド)
ミハイル・プレトニョフ(第2ピアノ、右サイド)(2003.8録音)
静かな第1曲「眠りの森の美女のパヴァーヌ」の静かな恍惚。こんなにもきれいな旋律があったのかと、初めて聴くような錯覚に襲われるくらい。
また、第2曲「おやゆび小僧」の、両者が絡み渾然一体となる中に浮かび上がる内なる哀しみの表情に心震える。
そして、最高の態を示す第3曲「パゴダの女王レドロネット」におけるずしりと重い、しかし決して無機的でないアルゲリッチの堂々たるピアノに対し、プレトニョフの軽やかな高音が応答する様。嗚呼、可憐な旋律よ。
あるいはまた、第4曲「美女と野獣の対話」での、優美なプレトニョフの美女に対し、いかにも動物的に語りかける(?)アルゲリッチの野獣(何と有機的な響きであることか)の掛け合いの妙。
白眉は、終曲「妖精の園」。こんなに愛らしく、華麗な音楽がほかにあっただろうか?
緩やかさと静けさと。そして、クライマックスに向かって光彩を放つグリッサンド!
これこそモーリス・ラヴェルの真骨頂であり、それをまた見事に再現するアルゲリッチとプレトニョフの天才。
ちなみに、プレトニョフが編曲し、アルゲリッチに捧げた「シンデレラ」は、プロコフィエフの方法を破壊することなくより女性的な円やかな響きを創出するもので、とてもピアニスティック。
例えば、第5曲「シンデレラのワルツ」などは、時の移ろいと共にテンポが微妙に変化し、その動きがまた自然かつ自在であるところが最高。そのことは終曲にも通じ、特に後半の低音の不気味な響きに二人の天才ピアニストの阿吽の呼吸を思う。
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アルゲリッチ&プレトニョフの録音については同感です。
ところで、「休肝日」ならぬ「休耳日」を作って、じっくり考えることも健康のために必要ではないでしょうか?
先日、ある日の吉松先生のブログを読んで、私はズキっとしました。
http://yoshim.cocolog-nifty.com/tapio/2016/02/post-1f5b.html
・・・・・・音楽の専門知識のない人が作曲家の頭の中を探る…というのはかなりの難題だが、すぐ「天才」とか「感動」とか情緒的な言葉で纏めてしまいがちな(あるいは逆に素人には理解不可能な専門用語で煙に巻く)音楽関係者と違い、・・・・・・
という箇所が妙に心に突き刺さるのです(笑)。
>雅之様
吉松隆さんの言葉、確かに痛いですね。(笑)
「休耳日」というのはそうなのかもしれません。
ちなみに、このブログも様々な事情で書けなくなる時が必ず来るだろうから書けるうちは書いておこうという想いがあります。日記というくらいですからもともとは自分自身の振り返りや記録として始めたもので、今は自分の思考や感情を客観視するツールになっています。
それでも昨今はお陰様で猫の手も借りたいくらいの忙しさで、遠方への出張などが重なった時に「今夜は物理的に無理だ」という日が来ることが明らかなのです。
どこまでできるかという自分との闘いも兼ねておりますので、僕なりにがんばります。(笑)
ところで、立花隆さんの件の書籍はまだ読んでおりませんが、これは絶対に面白そうですね。
だいぶ以前に立花さんの本にはまった時期がありましたが、どれを読んでも緻密でリアルで、ジャーナリズムのあり方の見本のようだと思っております。