グレン・グールドのブラームス「間奏曲集」(1960録音)を聴いて思ふ

brahms_10_intermezzi_gould524ことによるとグレン・グールドの残した最大の遺産かもしれない。
最晩年に録音したバラードやラプソディも素敵だ。しかし、1960年のこの「間奏曲集」は人後に落ちない、今もって最高の演奏だと僕は思う。
ブラームスの内なる哀惜が、冒頭に置かれる作品117-1から訥々と零れ落ちる。
おそらくグールドとブラームスには共通する「偏屈」がある。
見事な自己愛に浸された、悪く言うと自己中心的だけれど、それでも世界を包括するだけの熱量溢れる作品を生み出せるのだから、せっせと音楽することに向かうが良い。
ここには世間の絶賛という事実を裏付けとした絶対的自信が厳然とある。

ところで、20世紀初頭に活躍した女流作曲家エセル・スマイスの回想には次のようにある。

ピアノを弾くブラームスが一番好きだった。時に低く唸りながら、その声で自らピアノの伴奏をして、自作や力強いバッハのオルガン・フーガを演奏すると、巨人が地球の内部と共鳴しあって活動しているように見えた。額の血管は浮き上がり、素晴らしく青い眼が閉じられると、彼は作品に内在する抑制されたエネルギーの化身に見えた。騒々しい音はまったく出さない。複雑な音楽の中から潜んでいた主題が見事に浮き上がると、ブラームスはふざけながら「テノール用親指」の優雅な音色を誉めるよう、聴き手に求めるのであった。
「ブラームス回想録集③ブラームスと私」(音楽之友社)P200

まるでグレン・グールドにも通じる讃辞(描写)だ。
ブラームスの魂が、グールドの魂と同期する。

ブラームス:間奏曲集
・変ホ長調作品117-1
・変ロ短調作品117-2
・嬰ハ短調作品117-3
・変ホ短調作品118-6
・ホ長調作品116-4
・イ短調作品76-7
・イ長調作品76-6
・ロ短調作品119-1
・イ短調作品118-1
・イ長調作品118-2
グレン・グールド(ピアノ)(1960.9.29, 30&11.21,23録音)

作品116からは第4曲ホ長調が選曲される。
この幻想的な作品を、グールドは思いを込めて、しかし軽々と弾く。何という愛らしさ。
また、ロ短調作品119-1に通底する内なる激情は、クララ・シューマンに贈られたものだが、ここにある孤独感こそグールドのなせる技。
続くイ短調作品118-1に見る侘び寂。線香花火のような短い熱の放射に、最晩年のぶつけどころのない不甲斐なさを思う。そして、最後のイ長調作品118-2の哀しみ・・・。

ひじょうに孤独であり、きわめてゆっくり演奏するという指示も十分のことを伝えていません。各音符と各小節は、あたかもリタルダンドのように、ちょうど各音符から孤独感をひき出すかのように、ひびかなければならないのです。
(ヨハネス・ブラームス)
「作曲家別名曲解説ライブラリー7 ブラームス」(音楽之友社)P358

涙なくして聴けぬ、癒しのブラームス。

 

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5 COMMENTS

雅之

「孤独」と「自由」、両方を等価に憧れます!

「時間や社会に囚われず、幸福に空腹を満たすとき、つかの間、彼は自分勝手になり、自由になる。 誰にも邪魔されず、気を遣わずものを食べるという孤高の行為。この行為こそが、現代人に平等に与えられた最高の癒し、と言えるのである」・・・・・・テレビドラマ「孤独のグルメ」OPより

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ブラームスやグールドの日常も、きっと「孤食」はささやかな楽しみだったに違いありません。その風景に憧れます。

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岡本 浩和

>雅之様

「孤独のグルメ」ですか!
雅之さんからこれが出てくるとは思いもよりませんでした。(笑)

>「孤独」と「自由」、両方を等価に憧れます!

同感です。

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