德川さんの人柄や性格がそのまま映し出されたであろうコンサートだった。
前半のプーランクは、「音楽をする」喜びそのものを表する演奏で、それぞれの独奏者が悦に入りながら、しかし(大袈裟な言い方だけれど)真っ向勝負で挑んだ鬼気迫るものだった。洒脱で愉快であるとはいえ、どこかアンニュイで哀しいのである。
バソンはフランスでは少なくともファゴットとは区別されているそう。
音色はもちろん、その機能すらすべてが異なるのだと。小山さんに滾々とその背景を伺って納得した。世界にはまだまだ知らないことばかり。
鈴木さんのフルートも、座った場所が間近だったこともあるがブレスまでしっかりと確認でき、実にリアルで臨場感溢れるものだった。何よりプーランクの音楽が生きていた。
德川眞弓ピアノ・リサイタル2016
―C.W.ニコル震災復興プロジェクト協賛―
2016年5月24日(火)19時開演
東京文化会館小ホール
・プーランク:フルートとピアノのためのソナタFP164
・プーランク:オーボエ、バソンとピアノのための三重奏曲FP43
休憩
・モーツァルト:幻想曲ニ短調K.397
・ショパン:舟歌嬰ヘ長調作品60
・J.S.バッハ:シャコンヌ(フェルッチョ・ブゾーニ編曲)
~アンコール
・オール・スルー・ザ・ナイト(ウェールズ地方の民謡)
・グルダ:アリア
德川眞弓(ピアノ)
鈴木佐英子(フルート)
池田肇(オーボエ)
小山清(バソン)
C.W.ニコル(スペシャル・ゲスト)
20分の休憩を挟み、後半冒頭には仙波知司さんによるニコルさんへのインタビュー対談。
これがまた実に興味深かった。
まったく僕は無知で、ニコルさんのバックグラウンドをこれまで知らなかったのだが、元々はブライアン・ジョーンズのボディガードを務め、プロレスラーだったのだと。その流れで、54年前に空手を習うために来日したのが最初だそうで。そしてまた、8歳の時にはボーイ・ソプラノでブリテンの前で歌を披露したらしく・・・。いやはや、ウェールズ生まれのこの人の波乱万丈の人生の一端を知れたことで、それだけでも貴重な一夜だった・・・。
ところで、さすがは德川さん、モーツァルトもショパンも、そしてバッハ=ブゾーニも実に大らかでかつ繊細な演奏で素晴らしかった。
中でも、ショパン晩年の傑作「舟歌」の、滔々と流れる水の、煌めく美しさを最大限に表現したその演奏は、理想的なテンポとディナーミクで最高に美しかった。
もちろん難曲「シャコンヌ」の、堂々たる響きも心に沁み、この作品の凄さを再認識させられた。峻厳なバッハが、超絶技巧のブゾーニが德川さんの手によって、壮絶に語られた。
ちなみに、アンコールで、出演者全員で奏された「オール・スルー・ザ・ナイト」のアットホームかつ柔和な演奏に心動き、また德川さん十八番のグルダ「アリア」の癒しに満ちた演奏に感激した。
そういえば、ニコルさんがおっしゃっていた。
被災して一番大変なのは心の傷だと。
そして、その心の傷を治すのは他でもない「自然の力」なのだと。
首肯。
音楽にも自然の力が宿る。
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