「ウテ・レンパーsingsクルト・ワイル」(1988.8録音)を聴いて思ふ

ute_lemper_sings_kurt_weill551僕には、好きなオーケストラも、好きな作曲家も、好きな交響曲も、好きな食べ物も、好きなセックスの体位もないよ。だから、そういうジャーナリストがよくする好きなものの質問はしないでくれ。
ジョナサン・コット著/山田治生訳「レナード・バーンスタイン ザ・ラスト・ロング・インタビュー」(アルファベータ)P33

感情の機微を見事に映す名唱。
レナード・バーンスタインの言葉に触発されて、久しぶりに耳にした。

人間は生来、善性をたくさん備えているから、トラウマに妨げられず、機会が半分でも与えられれば、善性は光が漏れるように輝くんだよ。最近の例では、僕は、新しい友人、新しい恋人ができた。僕はそのことを前の恋人に知らせないといけなかった・・・でもそれは気まぐれで恋人を替えたというほど単純なことではなかったんだ。そして相手の反応は、美しく、思いやりのあるものだった。僕が誰かを愛する時、僕は永遠に愛する・・・そしてまったくの混乱を生み出してしまう。
ところで、ウテ・レンパー。
~同上書P92

1989年11月20日の、ジョナサン・コットによる彼の最後のインタビューは真に興味深い。
なぜここの件で突然ウテ・レンパー?
続けてバーンスタインは言う。

さっき話した「三文オペラ」の公演のあとに楽屋で彼女と会ったんだ。彼女はゴージャスだね。僕は熱をあげちゃった。彼女の最新アルバムは、「ウテ・レンパー・シングス・クルト・ワイル」といって、ジョン・マウチェリが指揮しているんだけど、センセーショナルだよ。彼女はまさに・・・。僕に新しい恋人がいなかったら、僕は彼女のツアーを追っかけていると思うよ!
~同上書P93

バーンスタインの鑑識眼はさすがだ。ウテ・レンパーは当時26歳。ある時は可憐な歌、またある時は妖艶な歌。どんな歌でも見事に表現する彼女の音楽に、バーンスタインは輝く善性を見出したのだろうか。

ウテ・レンパーsingsクルト・ワイル
・「銀の湖」より(カイザー台本)
・「三文オペラ」より(ブレヒト台本)
・「ベルリン・レクイエム」より
・「マハゴニー市の興亡」より(ブレヒト台本)
・あんたを愛してないわ(マーグル詞)
・「ヴィーナスの恋」より(パールマン台本/ナッシュ詞)
ウテ・レンパー(ヴォーカル)
ヴォルフガング・マイヤー(ハルモニウム)
カイ・ラウテンブルク(ピアノ)
ジョン・マウチェリー指揮RIASベルリン室内アンサンブル(1988.8録音)

例えば、「三文オペラ」から「セックスのとりこのバラード」の不思議な軽さと退廃美!
何とも巧い!!きっとバーンスタインは彼女のこの歌にそれこそ虜になったはず。

こいつは悪魔そこのけの
悪党 殺し屋 ひどく残酷な奴!
でも人泣かせのこいつでも
泣かされるものは何? 女!
女ならどんな時もOK
これぞ色気のとりこ
聖書も読まず 法律を笑い
利己主義を貫き
女の怖さを知ってるから
女を遠ざける
それも昼間だけのことさ
日暮れも待たずやりだす
(岩淵達治訳)

そして、「アラバマ・ソング」の衝撃!
ザ・ドアーズでずっと聴いてきた僕にとってウテ・レンパーのそれは、音楽のジャンルを超え人間の性の表裏を映し出す最美の鏡。巧すぎる!

ねえちょっと近くに酒場はない?
なぜなんて、聞かないで
飲まずにはいられない
だって飲まなきゃ いられない
飲まなきゃ死んじゃうわ
(岩淵達治訳)

まるでバーンスタインの深層を代弁するかの如く。ここにこそバーンスタインのいう「ワイルのウィット」が充溢する。

もう一度言うよ。ワイルのウィットを忘れてはいけない。すごいウィットだよ。ボッケリーニ=イベールの領域だよ。それからスカルラッティ。そして、お願いだからモーツァルト。ウィットはいつも軽々に片付けられ、それゆえ、真剣に受け取られなかった。別の言葉で言えば、それはブラームスではないんだ。
~同上書P172

ちなみに、「あんたを愛してないわ」の、レンパーの小悪魔っぽいひねくれた表現が堪らない。

 

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