若き恋~ハーモニアン

brahms_sonaten_leonskaja.jpg夕暮れが訪れ、月の光が明るむ
二つの魂は合一し
至福のうちに抱き合う
~シュテルナウ「若き恋」より

1853年9月、若きブラームスはデュッセルドルフのシューマン夫妻を訪れる。11月2日にシューマン家を離れる際、ヨハネスは自身の最新作を披露する。ピアノ・ソナタ第3番ヘ短調作品5。第2楽章アンダンテ・エスプレッシーヴォの譜面に作曲者は上記シュテルナウの詩の一節を記す。ヨハネスが未来に想いを寄せるクララに無意識に、あるいは暗に贈った言葉なのか否か。まさか彼が意図的にこの詩を引用したとは思えないが、人間というもの意識下では「自分のことをすべて知っている」はずだから、無意識とはいえ「自身の気持ち」を楽譜に添えて発表したものと考えてもよいかもしれない。それほどこのアンダンテ楽章は静かでありながら劇的な感情を奥底に秘めた名曲。

以前生徒だったM君が、「結婚祝い」にということで代々木上原の「ナチュラルカフェダイニング ハーモニアン」でご馳走してくれた。ほとんど完全ベジタリアン対応の食事でとても美味しい。お店自慢らしきオーガニック・ビールも最高。しかも価格も手頃でリーズナブル。健康に気を遣うご仁にはおススメのスポットかな・・・。感謝。

月の光が明るむどころか、生憎、外は雨。明日は大雨だという(場所によっては大雪とか)。まぁ、外の天気がどうであれ、人を想い、人に奉仕する気持ちを忘れなければ人間はいつでも幸せそのもの。ロベルト・シューマンに見出され絶賛された20歳のブラームスは、師の眼前で自身の第3ソナタを弾きながら当時何を思ったのか?・・・

明日で1月も終わる。やはり時の経過は驚くほど早い。今日も朝日新聞の夕刊を読んでいて、「心理学に勇気もらう」というタイトルで企業や学校で「自己受容」を喚起する研修が流行っているという記事が掲載されており、いよいよ「人間力向上セミナー」の時代が到来しつつあるのかなと再確認した。景気後退で誰もが後ろ向きになっている時代に、「心理学との出合いを通じて生きる意味を見つけようとしている人もいる」と、ある意味客観的かつ他人事のように冷静に捉えた記事。本来、人が自分自身を振り返り、謙虚にふるまう姿勢はいつの時代も重要なこと。不景気時の一過性のブームにならないよう、こういった研修を提供する側も腹をくくり、お客様に真剣に対峙したいものである。

ブラームス:ピアノ・ソナタ第3番ヘ短調作品5
エリーザベト・レオンスカヤ(ピアノ)

青年ブラームスが世に送り出した名作。ブラームスはいつでも真面目で真剣であった。推敲を繰り返すあまり発表できず破棄した作品も多いという。それゆえ、現存する-つまり発表した作品はどれも名作傑作の名に恥じない一品。一時期ブラームスの音楽にはまり、全作品をCDで蒐集しようと奔走した。今では滅多に聴かない音盤もあるが、いつ何時取り出してみても楽しめるところが素晴らしい。彼はいつも真剣そのものだった。


4 COMMENTS

雅之

こんばんは。
ブラームスの若書きのピアノ・ソナタは、ほとんど聴いたことがありません。ですからこの3番も、今、頭の中でイメージできません。ご紹介のCDのレオンスカヤのことも、よく知りません。
ところで先日、アファナシエフのシューマンの廉価CDを買ったついでに、若き日のグリモーの、シューマン「クライスレリアーナ」とブラームスのピアノ・ソナタ第2番の廉価CDも、買って聴きました。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2638444
デンオン時代のグリモーの演奏、いいですねぇ!(それにしても、このジャケット写真!)シューマンが目当てだったのですが、このブラームスの演奏も、気に入りました。
私、ブラームスの音楽は大好きな曲が多いのですが、シューマンのことを考えると実に気の毒で、クララを横恋慕したブラームスが腹立たしくなり、いつも敵対したくなります。そして、ワーグナー、ブルックナー、チャイコフスキー連合軍対、ブラームス、ドヴォルザーク、ハンスリック連合軍の戦い、絶対に前者に勝ちだと確信しているのです。参ったか!ブラームス、ドヴォルザーク、ハンスリック連合軍!

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
そうでした!雅之さんはどちらかというとシューマン派でしたね。とはいえ、横恋慕もシューマンが亡くなった後ですから許してあげてください(笑)。
ご紹介のグリモーの音盤は未聴ですが、良さそうですね。ジャケットの髪型がいかにも昭和です(笑)。
>ワーグナー、ブルックナー、チャイコフスキー連合軍対、ブラームス、ドヴォルザーク、ハンスリック連合軍の戦い、絶対に前者に勝ちだと確信しているのです。
ハハハ・・・。確かに・・・。

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雅之

昨日6日は小山実稚恵さんのピアノ・リサイタルを聴きに行き、最高に感銘を受けて帰りました。
http://munetsuguhall.blog8.fc2.com/blog-entry-146.html
全曲目最高でしたが、生まれて初めてそれまでよく知らなかったブラームスのソナタ第3番をナマで聴き、本当に素晴らしい曲だと実感できたのは、特に収穫でした。この歳になってもこういう体験ができるから、クラシック音楽の趣味はやめられません。
なお、この曲を「意識」したきっかけは、岡本さんのこの日のブログがきっかけだったので、岡本さんには「大感謝」です。
それと小山さんが自分で執筆した「プログラムノート」があまりにも秀逸!
あまりにも素晴らしく、ぜひとも読んでいただきたくなったので、一部分をご紹介します。
           ~若き恋~
    イメージ<若草色> 初々しい若さと希望・あふれるエネルギー
希望に満ち溢れた若き恋。今回は3人の作曲家、ショパン・シューマン・ブラームスの青春時代の作品を集めたプログラムです。『若き恋』というタイトルは、ブラームスのソナタ第3番の第2楽章で用いられているシュテルナウの詩のタイトルでもあります。夜の闇に沈みゆく月影と、結ばれる二つの魂。ひたむきさと純粋な恋心は若さの象徴であり、そこから溢れ出てくる音楽はダイレクトに私達の心に響いてきます。ショパンのノクターンでは湿気を帯びた夜の愛を感じ、シューマンの「謝肉祭」からは、溢れ出るアイディアと目まぐるしく動く情景の中に隠されたシューマンの潜在意識と愛の予感を、そしてブラームスの第3番のソナタでは繊細さと大胆さと燃えるような情熱。3人の作曲家の「若き恋」を感じ、較べてみてください。
続いてブラームスのピアノ・ソナタ第3番の小山さんの解説の中から[第2楽章]と[第5楽章]を選んで・・・。
[第2楽章]アンダンテ・エスプレッシーボォ 変イ長調
譜面の上にはシュテルナウの詩「若き恋」の一節が書き記されています。
 夕べは黄昏の色を濃くし、月の光も輝く
 そのもとで、二つの魂は愛によって結ばれ、
 たがいに寄り添って、抱き合う
この詩を受けて、静かな語らいで始まるこの第2楽章は至上の美しさです。柔らかな左手が、和声の階段を一段ずつ静かに降り、心に沁みる歌が右手でゆったりと奏でられます。A-B-A-Cの複合三部形式で、結尾にあたるCの部分でのピアニシモからフォルティシモへの移行は深く長く情熱的で、至福の内に結び合わされていく二つの魂、その合体の姿が象徴的に表現されているように感じます。
[第5楽章]アレグロ・モデラート・マ・ルバート へ短調
ボソボソとつぶやくように始まる不思議な楽章。スケルツォ風主題によるロンド形式で「A-B-A-C-A-Coda(コーダ)」の形を取っています。付点のリズムに乗った旋律は重音で心地よく、時に不安げに歌われます。それに対してB部分では、若きブラームスの青春を感じさせる夢と期待に満ちた音楽が現れ、その歌は素朴なだけに心にそのままグッと迫ってきます。私はこのフレーズを弾く時に、思わず「少年よ、大志をいだけ」の言葉を思い出してしまいます。C部分ではブラームス特有の厚みのあるオクターブで和声が奏でられますが、そのゆったりと懐の広い“ブラームスの和声”に身を委ねる気持ちの良さ、若干20歳のブラームスの作品ではありますが、湿り気を帯びた晩年のブラームス特有の響きをもそこからは感じ取る事ができます。厚みをもってずっしりと豊かに響くオクターブの和音、その右手と左手の対比的な動きが音空間を拡充させ、陰影のある独特のブラームスの響きを作り出していると言えるでしょう。コーダは一種のカノンと言える形になっています。次々にモチーフは重なり合い、情熱の渦に巻き込まれて壮大なクライマックスを築き、変格終止で終わります。若さ溢れる大ソナタ、クライマックスまでの直線的なエネルギーと衒いのない一途な情熱が、この作品の最大の魅力なのだと感じます。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
そうでしたね。小山実稚恵さんのリサイタルでしたね。
良かったですか!
>ブラームスのソナタ第3番をナマで聴き、本当に素晴らしい曲だと実感できたのは、特に収穫でした。この歳になってもこういう体験ができるから、クラシック音楽の趣味はやめられません。
ですよね!よく知らない曲の方が多いのですから、一生楽しめます。
それにしても小山さんの「プログラムノート」はいかしてますね。こういう曲目解説が書けるようになりたいものです。

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