国民総幸福

schumann_argerich_myungwhung.jpg26日は新月で旧暦のお正月にあたっていた。あらためて2009年を迎え、その日以来いよいよ「こと」が動き始めた感がある。
株式会社ゴトウ経営が主催する「輝き塾」のゲスト講和(5月13日)に講師としてお招きいただくことが決定した。昨年の滋賀短期大学での教養講座同様、愛知とし子とのコラボレーションになるが、いかんせん今度の場合はお客様が経営に携わっていらっしゃる方々がほとんどだろうゆえ、気分一新より内容に磨きをかけ、喜んでいただけるものにしようと気合いが入る。

「GNP(国民総生産)よりGNH(国民総幸福)が大切だ」
これは、第4代ブータン国王ジクメ・センゲ・ワンチュックが、1976年にスリランカで開かれた第5回非同盟諸国首脳会議の後の記者会見で語った言葉である。昨年、辻信一氏がこのGNHという造語をキーワードとし、東西で活動する10人の講師のスピーチを編纂した「GNH~もうひとつの〈豊かさ〉へ、10人の提案」(大月書店)を読み、痛く感銘を受けたことは前にも書いたと思う。
ブータン国王は今から40年近く前に、社会をおかしくしているのはGNPだと言い切り、GNHを国家の目標にしているという。ちなみにあるブータンの若者はNHKの取材に応え、「良いことは神様のお陰、悪いことは自分たちのせい」と語ったらしい。まさにブータン王国が「世界一幸せな国」と呼ばれる所以がこの言葉の中に如実に表れている。他人には優しく、自分には厳しく。そして謙虚に。

来週の「早わかりクラシック音楽講座」に向け、そろそろシューマンについて整理し始めようと文献をいろいろと開いている。シューマンの音楽は決して嫌いではない。とはいえ、これまで熱中して聴い
た時期があるとも言えない。ただ、伝記などをざっと読むと、優越感と劣等感の間を常に行き来していた様子があからさまに見てとれる。彼が晩年、精神に異常を来たし、それが原因で死に至ったということもなるほど理解できなくもない。常に妻であるクララとの比較と劣等感に苛まれながら、ビジネスと作曲活動に取り組んでいた彼は、自身の才能と、それを正当に評価しない世間との間に始終板挟み状態だったのであろう。そんなシューマンも、時には(??)美しく健全な音楽を生み出す。

精神を病むとき、たいていの人は「自分のことばかりを考えてしまっている(我に入る)」。人は自分のために生きているのではなく、誰かのために生きているもの。自分への拘りを捨て、ただ純粋に他人のために動けるようになったらどれだけ楽だろうか。

シューマン:ピアノ協奏曲イ短調作品54
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
チョン・ミュンフン指揮フランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団

シューマンがもっとも脂の乗っている時期に書いた、一寸のぶれもない調和のとれた名曲。
つい数ヶ月前、タワーレコード新宿店の10周年を記念して本邦初リリースされたライブ録音。アルゲリッチといえば、カルロス・クライバーなどと同じく、最近は極端にレパートリーを絞り込み、同じ曲を何度も舞台にかけ、その都度灼熱のパフォーマンスを見せてくれる。ご多聞にもれずこの音盤も然り。たったの1000円で買えるのだから、お見逃しなく!

いろいろ思案したが、今回の講座のメイン曲はこのピアノ協奏曲にするつもり。あぁ、そういえばこの協奏曲は、ウルトラセブンの最終回でモロボシ・ダンがアンヌに自分がセブンであることを告白し、別れを告げる印象的なシーンのBGMとして使われていた。もう何度も見たが、いつ見てもこの部分は泣ける。ウルトラセブンは名作なり。


10 COMMENTS

雅之

こんばんは。
まさか秀才の岡本さんがウルトラセブンのファンっだったとは!
何となく以前ブログでエヴァの話題が出た時に、そんな予感はしていましたが(笑)・・・(ちなみに私は、アンチ・エヴァですが・・・)。
はい、私もウルトラ・マニアでして、初代ウルトラマンやセブンにとどまらず、息子といっしょに、ティガやガイアなどの平成ウルトラマンも、息子より熱中して観ていたくらいです(この2作も傑作で、若い女性のファンも多いんですよ)。
それにしてもウルトラセブンは名作ですよね。今のようにいつでもビデオやDVDで繰り返しテレビ番組を観られない子供時代、好きな番組の最終回は、本当に寂しい思いをしたものです。おっしゃるように、セブンの最終回は泣けますねぇ。
ところで、ウルトラセブンのテーマ(冬木透 作曲)の冒頭が、ベト7の第1楽章からの引用であることは、当然気が付かれておられますよね!
忘れるところでした、ご紹介の盤については、なーんにも付け加えることはありません、素晴らしいです。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
>まさか秀才の岡本さんがウルトラセブンのファンっだったとは!
何をおっしゃいますか!!僕は秀才でも何でもないですよ・・・。一介の凡才です。ウルトラセブンは不滅です。永遠です。今は放映されたものをDVDにおとしているのでいつでも観れる状態ですが、何度見ても最高です。円谷一をはじめ、当時のプロダクションの面々は天才ですね。最高です。しかし、さすがにテティガやガイアまでは観ておりません。傑作なんですか!?
それは観ないと・・・。
>今のようにいつでもビデオやDVDで繰り返しテレビ番組を観られない子供時代、好きな番組の最終回は、本当に寂しい思いをしたものです。
あー、確かにあの時代はそうですね。どんな番組も最終回を見逃すまいと必死でした・・・。
>ウルトラセブンのテーマ(冬木透 作曲)の冒頭が、ベト7の第1楽章からの引用
えー、そうでしたか!まったく気づいておりません。迂闊にも・・・(笑)。

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雅之

すっかりオタクになり、すみません(笑)。補足コメントです。
ウルトラセブンの最終回に使われたシューマンのピアノ協奏曲の音源は、リパッティ(ピアノ)、カラヤン指揮フィルハーモニア管弦楽団による演奏の、モノラルLPらしいです。数年前に制作関係者によるインタビュー記事で知り、昨年オーパス蔵の復刻CDを買い、改めて聴いて感動しました。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2693632

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岡本 浩和

雅之様
おはようございます。
いえいえ、こういうオタク話ができるところが嬉しいんです。
さすが同世代です(笑)。
>最終回に使われたシューマンのピアノ協奏曲の音源は、リパッティ(ピアノ)、カラヤン指揮フィルハーモニア管弦楽団による演奏
そうそう、制作秘話(実相寺さんでしたっけ?)で僕も知りました。つい最近オーパス蔵から復刻されましたよね。そうですか、感動しましたか!僕は未聴なので聴いてみたいですね。

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たんの

国民総幸福量(GNH)、いいですね!
友人の1人がブータンに移住したいと
言っていたことがあります。
納得・・・

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岡本 浩和

>たんのさん
こんばんは。
辻信一氏編著のこの書籍ぜひ読んでみてください。とても良い本です。

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ぷみ

ご無沙汰しております。お元気でしょうか?
今日、ロンドンでは初雪が積もり学校に行くのが大変でしたが非常に美しい風景を見る事ができました。東京は今年も暖冬なのでしょうか?
今回は僕も(雅之さんもですよね?)愛して止まないシューマンを取り上げれるのですね。しかも、ピアノ協奏曲!僕のこの曲の愛聴盤は以下の三点です。
1、シャイー/ゲヴァントハウス管/アルゲリッチ(dvd盤)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1237823
2、プレヴィン/ロンドン響/ルプー
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1237823
3、カラヤン/フィルハーモニア管/リパッティ
1番はシャイー/ゲヴァントハウス管が少し弱いですがアルゲリッチがなんといっても素晴らしいです!若かりし頃のアルゲリッチのシューマンのピアコンの演奏は少し硬く要所要所のフォルテなどきつい部分がありますがこの演奏は対照的という意味でもアルゲリッチの巨匠的風格が伺える素晴らしい演奏だと思います。まぁ、自分自身アルゲリッチ贔屓なので(笑)
2番はあまり有名な盤ではないかも知れませんが実に素晴らしい演奏です。この演奏は協奏曲の一つの到達点だと思います。プレヴィンの指揮から溢れるロンドン響の音色は実に暖かく柔らかく優しく、これこそオーケストラが自然と鳴っていると感じられる演奏です。オケの自発的呼吸だけでなくプレヴィンがしっかりとオケに深い呼吸を与えており出て来る音楽が苦しくなく音の広がりが非常に広大でかつ恣意性も無くケバケバしくなく素朴で僕の好きな演奏です。ルプーのピアノも実に丁寧かつ自然でシューマンの女性的部分をよく表出できておりプレヴィンとの相性も最高です。上に挙げた3点の中で最も女性的演奏かも知れません。協奏曲の理想像とも言うべき演奏だと思います。カップリングのグリーグのピアコンは同曲中のベスト盤です。是非お時間があればお聴きになってみて下さい。ジャケットが自分の所有しているものと違いますがこれだと思います。
3番は言わずもがなですね。始めてシューマンのピアコンで泣けたのは過去にも未来にもこの演奏だけです。僕の最も好きなピアニストはリパッティ・ミケランジェリ・アルゲリッチなんですが中でもリパッティのピアノは実に上品で表現豊かでこの人こそ神の子として生まれてきた人なんだなと思ってしまいます。もし、長生きしたら晩年のリパッティの演奏なんて想像しただけでも実に美しく上品で崇高な神掛かった演奏だったんでしょうね。本当に心から惜しいと思える芸術家の一人です。
本当にシューマンのピアコンは語れば語るほど素晴らしい傑作だと思います。素晴らしい講座になる事だと思いますし願っております。実に参加したかったです・・・(涙)
友人のmixiでこのようなものを見付けました。いわゆる幸せ国ランキングみたいなものです。
http://www.happyplanetindex.org/list.htm
日本・イギリス・アメリカなど勿論下位です。上位は基本的に南国ですね。ランキング付けの要素に自然に対する負荷度があるらしくそれが大きく反映しているようです。

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岡本 浩和

>ぷみ君
こんばんは。ロンドンは初雪!いいねぇ。きれいでしょ?!東京も結構寒いよ。去年のことはあまり覚えてないので比較はできないけど・・・。
そうです、シューマンを取り上げます。ただ、僕自身はこれまでそれほどシューマンにかぶれたことがなかったので今勉強中(笑)。僕より詳しい雅之さんやぷみ君が不参加で逆に安心してます(笑)。
ご紹介の3つ。いやはやどれも未聴です。さすがぷみ君。若いのに切れ味抜群の論評!
若き日のアルゲリッチのDVDは面白そうね。ルプー&プレヴィンは確か昔から定番のやつだね。リパッティ&カラヤンは不滅の名盤だ!(残念ながら僕は聴いてない・・・)
>リパッティのピアノは実に上品で表現豊かでこの人こそ神の子として生まれてきた人なんだなと思ってしまいます。もし、長生きしたら晩年のリパッティの演奏なんて想像しただけでも実に美しく上品で崇高な神掛かった演奏だったんでしょうね。本当に心から惜しいと思える芸術家の一人です。
これは同感。ただし、実演を聴いてないからねぇ。そこがあまりに残念。
「幸せ国」ランキング、面白いね。特に東京にいると自然のありがたみが心底自覚できます。田舎はいいわ。

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フレンチブル

GNH、私もTVで見てすごく興味深く感じました。
紹介されていた本、読んでみます。

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岡本 浩和

>フレンチブルさん
ぜひ読んでみてまた感想を聞かせてください!

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