ミッシャ・マイスキーのシューベルト「無言歌集」ほか(1996.1録音)を聴いて思ふ

schubert_songs_without_words_maisky610人生で今日という一日がどんな日で、未来に何をもたらすのだろうかを考えると良い。
ただ生活するのではなく、ひたすら生きること。生きることに手を抜くことなかれ。

わずか31年という短い生涯で、千近くの作品を世に送り出したフランツ・シューベルトの生き様は実に尊い。
何よりあらゆる感情が反映される歌の素晴らしさ。彼が選んだ詩は、どれもが人類の大いなる遺産だけれど、仮に歌詞がなかったとしてもその歌の魅力はかけがえのないもの。
シューベルトの音楽は心に、魂に響く・・・。

ミッシャ・マイスキーを聴かなくなって随分になる。
彼の何かが変わったとか、特に理由はない。ただ、意味なく僕の想いが離れただけ。
久しぶりに聴いたマイスキーの、人声に近いチェロの音色に間違いなく心揺さぶられた。
遺作の「アルペジオーネ・ソナタ」は、悲しげな音調を示す。中でも第2楽章アダージョは一際悲しい。しかしながら、音楽は人を幸せな気分にする。黙って身を委ねようではないか。

音楽家は、人の心を幸せにすることができる。音楽は、人をつなぐコミュニケーションのひとつ・・・だから音楽はすばらしい。
POCG-1968ライナーノーツ

マイスキーの言葉は真に優しい。もちろん彼の奏するチェロも。

シューベルト:無言歌
・アルペジオーネ・ソナタイ短調D821遺作
・知りたがる男D795-6~歌曲集「美しき水車小屋の娘」
・ミニョンの歌D877-4~「ヴィルヘルム・マイスターからの歌曲集」
・幻D911-19~歌曲集「冬の旅」
・辻音楽師D911-24~歌曲集「冬の旅」
・夜と夢D827
・海辺にてD957-12~歌曲集「白鳥の歌」
・音楽に寄せてD547
・ますD550
・セレナーデD957-4~歌曲集「白鳥の歌」
・孤独な男D800
・水車職人と小川D795-19~歌曲集「美しき水車小屋の娘」
・野ばらD257
・万霊節の連禱D343
・君こそは憩いD776
ミッシャ・マイスキー(チェロ)
ダリア・オヴォラ(ピアノ)(1996.1.26-28録音)

もう25年以上前のことになる。今はない千駄ヶ谷の津田ホールで僕はマイスキーのバッハを聴いた。途中弦を切りながらあの偉大な作品に果敢に挑む彼の集中力に感動した。そのことは今でも忘れない。
あるいは、すみだトリフォニーホールでのアルゲリッチ、クレーメルとのトリオの夕べ。音楽史上最高の(?)一夜を目の当たりにできた幸福。前半のショスタコーヴィチの三重奏曲冒頭のチェロが最弱音で主題を奏で始めたその時に2階後方の扉が大きな音でした。怪訝な仕草で音楽を止め、最初からやり直したあの緊張感。
すべてが良い思い出だ。

白眉は数々の「無言歌」たち。「冬の旅」からの歌は、ピアノ前奏から涙なくして聴けぬ。例えば「辻音楽師」のピアノとチェロの対比に感じる慈悲。

何度も歌詞を読み返しました。歌詞を知ることは重要です。でも演奏中は、歌詞については考えませんでした。これらの曲は表現に富んでおり、それ自身が生命をもっているから、歌詞がなくても十分に楽しむことができます。
~POCG-1968ライナーノーツ

「夜と夢」D827の旋律の美しさはシューベルトの真骨頂。
まるで元からチェロのための作品のよう。
そして、ハイネの詩による「海辺にて」の憂い。深く沈み込むマイスキーのチェロが大いに歌う。あるいは、最晩年の「セレナーデ」(白鳥の歌)の無限の美しさ!
愛らしい「野ばら」も堪らない・・・。

私は、音楽は人種や国境を越えて人びとの心に直接訴えかける言葉、しかも最も洗練された言葉だと思っています。だからこそ、素晴らしい音楽は何世紀もの時を超え、世界中の多くの人びとに感動を与えつづけることができるのです。
(ミッシャ・マイスキー)

 

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2 COMMENTS

雅之

私は、マイスキーにはそれほど入れ込んでいませんでしたが、彼も80年代から90年代、21世紀と、芸風はかなり変化したようですね。私は一部の音盤でしか彼の演奏を知りませんが、ご紹介のCDは確かに素晴らしかったですね。

私的に懐かしのお気に入りは、当時個性派の面々が集結したこれ ↓ ですかね。

G.クレーメル,K.ダンチョフスカ(vn)G.コース(va)M.マイスキー,岩崎洸(vc)
シューベルト:弦楽五重奏曲ハ長調 D956,Op.163

https://www.amazon.co.jp/%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%88%EF%BC%9A%E5%BC%A6%E6%A5%BD%E4%BA%94%E9%87%8D%E5%A5%8F%E6%9B%B2Op-163/dp/B01BOBCMVI/ref=sr_1_1?s=music&ie=UTF8&qid=1470139353&sr=1-1

今の耳でもう一度聴き直してみたいので、手放してしまったことを少し後悔しています(笑)。

シューベルトは間違いなくチェロを愛していたし、マイスキーとシューベルトとは、これまた間違いなく相性がいいと思います。

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岡本 浩和

>雅之様

マイスキーの芸風は明らかに変わりましたね。
今はもうほとんど聴かないので、久しぶりに実演に触れてみたいところです。

ところで、ご紹介の五重奏曲ですが、未聴です。
それにしてもこれは面白そうですね。
これだけプレミアがついていると聴いてみたいのですが、手が出ません。
と思って調べたらyoutubeに落ちておりました。
https://www.youtube.com/watch?v=JvgPNLm15fA

ゆっくり聴いてみようと思います。
ありがとうございます。

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