The John Coltrane Quartet “Africa/Brass”(1961.5.23 & 6.7録音)を聴いて思ふ

coltrane_africa_brass647亀川衛さんの、ジョン・コルトレーンの日本公演についての思い出には、コルトレーンの人柄が見事に描かれており、実に興味深い。

ステージの足もとのヨダレのすごさ、直径1メートルはベタベタ・・・セロニアス・モンクの汗もすごかったけど、恐ろしい程の鬼気迫る演奏だった。―どうしてそんなに難しい演奏をするのかという質問に―自分の音楽は神に捧げているので、どう聴かれようともかまわない―と。
季刊「ジャズ批評」No.46「ジョン・コルトレーン」(ジャズ批評社)P137

こと音楽に関してコルトレーンはすべてを超越したのだろう、その凄まじさが伝わる。そして、その演奏の背景には、神や仏に帰依する崇高な信仰心があったであろうことが理解できる。

天ぷら屋に行こうと本多さんが誘ったら、それは肉か魚か?と、油は?植物油・・・なら食べようと、精進揚げをすこうしつまんでいた。徹底した菜食主義者だったね。
~同上書P137

僕たちの存在は命そのものであり、すべてが因果の中に包まれることを彼は知っていた。おそらく彼は肉体を超え、魂で物事を見ていたのだと思う。
しかしながら、結局酒を止めることができなかったことが寿命を縮めた。
コルトレーンの命があと数年でも長らえていたら、一体彼はどこに行き着いていたのだろう?

ブッカー・リトルやフレディ・ハバートが(ソロのない)一団員となるオーケストラを従え、ジョン・コルトレーンが唸り、咆える。極めて熱量の高いサックス・ソロは、それに対峙する聴衆を別次元の世界に誘ってくれる。コルトレーンのすごさは、録音を通じてさえ十分に伝わる。

The John Coltrane Quartet:Africa/Brass (1961.5.23 & 6.7録音)

Personnel
John Coltrane (soprano saxophone, tenor saxophone)
McCoy Tyner (piano)
Reggie Workman (bass)
Elvin Jones (drums)
Orchestra conducted by Eric Dolphy

“Africa”にある呪術的響きに、数年後にフリーの世界に入り込んで行くコルトレーンの前兆を垣間見る。ドルフィー率いるブラスと渾然一体となりながら、恍惚とサックスを吹きまくる様、ころころと音階を駆けるマッコイのピアノと細かくリズムを刻むエルヴィンのドラムをバックに唸るサックスに奇蹟を発見する。
コルトレーンと一時期共にしたマッコイ・タイナーの言葉が重い。

彼とのプレイで貴重な音楽体験というと・・・それはちょっとむずかしいな。すべてがそうだったとしか言えないよ(笑)。毎晩いつも何か新しいものがあったね。常に成長してくんだ。そして変化してくんだ。しかし我々はいつでも音楽に対して真面目に向かっていたよ。とにかく我々はプレイングを愛していたっていうことだね。我々の演奏は誰が抜けても成り立たなかった、つまり一人、一人が重要だったんだ。
(マッコイ・タイナー「コルトレーンにはじめて会った頃」)
~同上書P53

60年代をあっという間に駆け抜けたコルトレーンは自身の命を削りながら変化を繰り返した。だからこそ彼の音楽は普遍であり、尊いのだ。
続く、マッコイ・タイナーの見事なアレンジによるトラディショナル”Greensleeves”におけるコルトレーンのソプラノの美しさ。音楽が進むほどにエネルギー量の放出が並大抵でなくなり、聴く側も常に緊張を強いられるが、終結でようやく弛緩する妙味。
1966年夏に行われたフランク・コフスキーとの対談の中で彼は言う。

音楽は人間の心の表現、あるいは人間そのものの表現であり、まさにいま起こっていることを表現するものだと思う。それはすべてを、人間のすべてを表現するものだろう。
~同上書P301

コルトレーンがどんな瞬間も人間そのものを表現しようとしたことに尽きる。
そして、サックス・ソロとブラスが対等に分かち合う”Blues Minor”のジャジーなノリに僕たちは我を忘れる。渾身の演奏はやっぱりすべてを超えるのだ。

われわれに必要なものは、誠意と熱意だと思う。(ジョン・コルトレーン)
~同上書P321

“Africa/Brass”はまさにこの言葉の体現。素敵だ。

 

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